社会問題小説・評論板

第1話 『幸せな日常』 ( No.1 )
日時: 2010/07/18 16:02
名前: 霞夜 ◆MQOpFj.OVc (ID: 0pAzrPg3)

——桜風中学校、朝。
開け放たれた教室の窓から、
さわやかな5月の風が舞い込んでくる。
若草色のカーテンが、ふわふわと揺れていた。

ガラ、という音とともに、教室のドアが開く。
教室に入ってきたのは、雨宮月歌(あまみや つきか)だった。


「おはよー!」

とても明るい笑顔で月歌に声を掛けてきたのは、神田美優。
おさげ髪がふわりと揺れる。
彼女は、月歌と同じ【仲良しグループ】のメンバーだ。
ちなみにこの2人の付き合いは、小学生時代からと結構長い。


「おはよ。ねえ、英語の宿題やった?」

「やったやった。全部答え丸写しだけどね★」

「……全部はまずいよ。
 せめてわかんないところだけにしとこう」

「いーのいーの。一問も二問も全部も一緒!」

やれやれ、とつぶやく月歌に、
「なんだその呆れ顔はー!」と叫んで飛びかかる美優。
それからきゃあきゃあとじゃれあいが始まった。


「ゆうちゃんも月歌も、相変わらず仲がいいね〜。あはは」
「よぉ、バカップル」


妙に間延びした声と、女子にしては低い声。
月歌と美優が同時に視線を向ける。
そこに立っていたのは、
桜野美春(さくらの みはる)と
柏木凛(かしわぎ りん)だった。
彼女たちもまた、月歌や美優と同じグループに属している。


「バカップル言うなー!
 だいたいあたし達は女同士だよっ」

またもや暴れ始める美優。
月歌と凛はそれを見て、けらけらと笑っている。


「それでも良いんじゃないかな?
 仲がいいのは良いことだよ」

にっこりと微笑んで、美春は言った。
美優の腕にこもっていた力がずるりと抜ける。


「ま、それもそうだ」

一瞬の間をおいて、凛が納得したような表情でうなづく。
月歌もどこか嬉しそうだった。
美優も振り上げた腕を下ろして、半ばあきれたように微笑む。
おふざけの空気がどこかへ吹き飛んだ、まさにその瞬間。


「おはよう」

このグループのリーダー的存在である、
雲居美鈴くもいみすずの声が響いた。
とたんに4人の間の空気が、いつものものに戻る。

「おはよう!」
「美鈴ー!遅すぎだよっ★」
「おはよ〜、みっちゃん」
「よ、やっと来たじゃん」

各々が違う挨拶をしながら、
美鈴のもとへと駆け寄ってゆく。
いつもと同じだ。
——皆が大好きな、変わらぬ日常だ。


それから、HR開始のチャイムが鳴るまで、
彼女達の談笑は続いた。