社会問題小説・評論板
- 第2話 『夕闇の中で』 ( No.2 )
- 日時: 2010/07/18 17:55
- 名前: 霞夜 ◆MQOpFj.OVc (ID: 0pAzrPg3)
——午後6時——
輝く夕日はとうの昔に沈んでいるし、
美しい茜色さえももうほとんど残っていない。
茜色を追いやったのは、濃い瑠璃色。
その上に、細い月が光っていた。
この時間が、生徒たちの下校時刻だ。
「こんな時間まで部活なんて」などと
愚痴をこぼしながら、生徒たちは校門を抜けてゆく。
「じゃあねー!」
「ばいばい♪」
「また明日ね〜」
多くの生徒でにぎわう校門に、
あの5人の声が響き渡っていた。
5人はそれぞれと別れのあいさつを交わしてから、
それぞれの自宅へと向かって歩き出す。
『今日も楽しかったな』
そう思っているのが4人。
月歌に美優、それから美春と凛だ。
となると、異なる思考をしているのは——
残る一人、【美鈴】ということになる。
美鈴は4人と別れると、
さっきまでの笑顔はどこへやら、
恐ろしいまでの無表情になった。
「はぁ、退屈」
——そう、美鈴は4人のことを
それほど大切には思っていなかったのである。
だからこそ、退屈だったのだ。
ただの知人と過ごす日常など、退屈以外の何物でもない。
かつん、かつん、かつん。
通学用の靴が、どこか間の抜けた音を立てる。
「……あ」
突然、美鈴はぴたりと立ち止った。
冷たい風が吹いて、木々がざわめく。
美鈴はしばらく考えるそぶりを見せて——
にんまりと嫌な笑みを浮かべた。
形の整った唇と、大きくて可愛らしい瞳が不気味に歪む。
美鈴は恐ろしいことを思いついてしまった。
それは……『いじめ』である。
人間誰しも、「自分より弱い者をいじめたい」という
残虐な心を持ち合わせているのが現実だ。
しかし普通の人間ならば、それを理性で抑え込み、
なんとか普通の生活をおくることであろう。
だが——中にははじめからそれをしようとしない人間がいる。
美鈴も、そのうちのひとりだった。
月歌も、美優も、美春も、凛も。
誰一人として知らない。
自らの親友が、恐ろしいことを考えているだなんて。
その考えによって、幸せな日常が崩壊するだなんて。
……知る由も、なかった。
美鈴は先刻とは打って変わって、
闇色に染まりかけた道を楽しそうに駆け出す。
ポニーテールに束ねた髪が、
ふわりふわりとリズミカルに揺れていた。