社会問題小説・評論板

第3話 『凛の警告』 ( No.3 )
日時: 2010/07/19 17:04
名前: 霞夜 ◆MQOpFj.OVc (ID: 0ymtCtKT)

美鈴が帰宅した頃、
月歌は自室で携帯電話を操作していた。
画像ファイルの整理をしていたのである。

(あ、これ……
ちゃんと専用ファイルに入れてなかった)

ある画像を見たところで、月歌は手を止めた。
その画像は——今の仲良しグループで
初めて撮影したプリクラだ。

ちょうど一番前の真ん中に美鈴、
その右側に美春が、左側に凛が立ち、
可愛らしく笑っている。
そして後ろの位置には、仲良く手をつないで写る
月歌と美優の姿があった。


「やっぱり私、美優のこと
 一番信頼しているんだよね……」


念のために言っておくが、
月歌は決して美鈴や美春、凛を
信用していないわけではない。
ただ、付き合いの長さゆえに、
無意識のうちに美優のことを
一番に考えてしまうだけなのだ。

そう、それだけだから——
美優以外の3人のことも、
本当に、心から大好きだった。

(本当に、みんなと親友でよかったよ)

瞳を閉じる。
記憶がよみがえる。


——舞い散る美しい桜の木。
——立派に飾られた、『桜風中学校 入学式』という看板。

——ねえ、なんか不安だよ。

そう言って、少し大きめに作られた
制服のスカートを握りしめる月歌。

——大丈夫だって。

緊張を完全には隠せないながらも、
そう言って元気づける美優。

それから、ふと向けた視線の先に、
2人の少女と一緒に、とても可愛らしく笑う美鈴を見つけた。

なんとなく惹かれて、なんとなく声をかけたら、
偶然同じクラスで、自然と付き合いも深くなり、
『大親友同士』となって、今に至る。

自然と笑みがこぼれる。
思い出に浸りきっていた、まさにその瞬間——
月歌の携帯電話のメロディーが、着信を告げた。
ディスプレイには、『凛』と表示されている。

ピッ。


「もしもし。どうしたの、凛?」
『あ、ごめん……突然』

なにやら、不穏な空気が伝わってくる。
浮かない顔の凛を想像して、
月歌は何となく不安になった。


『あの、さ。美鈴のことなんだけど』
「……うん」
『なんかさ、美鈴、最近……その、変だと思わない?』


そう言われて、ここ最近の美鈴の行動を思い出してみる。
だが月歌には、変だと思うような場面は
思い浮かばなかった。


「うーん、私はわかんないや。なんかあったの?」
『……なんていうかさ、退屈そうなんだよね』
「へ?」

『うちらといても、たまにこう……
 ものすごく退屈そうで、無表情なときあるの。
 それが、怖いんだ』

「まさかぁ。凛の考えすぎじゃないの?」
『……まだ、あるよ』


月歌の問いかけに、凛は答えない。
それは、自身の出した答えに
絶対の自信があるからだろう。
それに気づいて、月歌はさらに不安になった。


『月歌ってさ、美優と仲いいでしょ』
「まあね。小学校時代からの付き合いだし」
『それ、美鈴は気に入ってないよ。きっと』
「へ……?」

月歌には、凛のいうことが理解できていない。
それゆえに、何も言い返すことはできなかった。
ただただ、黙って凛の言葉を待つのみとなっている。


『美鈴が、2人のことを嫌な目で見てるの、見たことあるから』


——月歌は考える。
それがわかるのかどうかは定かではないが、
凛はもうなにも言わずに月歌の返答を待っている。


(美鈴がなんでそんなこと……。
っていうか、美鈴はそんな人じゃない。
 いつも明るくて優しくて……人気者で……)

(だけど、凛だってこんな嘘をつくような人じゃない。
 正直だし、精神的にも大人だし。)

(どっちかが嘘をついてるって言うの……?
 そんなはずない。でも、そうじゃないなら一体……)


月歌の返事がないことで気まずさを感じたのだろう、
凛は口を開くと、小さく言った。

『急に変な話してごめん。
 まあ、その……気をつけて、ね』


凛は、月歌の返事を待たずに、
じゃあね、とだけ言って電話を切った。
ツー、ツー、という、どこか間の抜けた音が響く。
通話を終了してからも、
その音は月歌の耳にいつまでもこだましていた。