社会問題小説・評論板

第1話 【日常風景】Ⅰ ( No.1 )
日時: 2010/10/17 22:08
名前: 血吹 (ID: 5ky72w0o)

『部活動開始時刻5分前です。
 すみやかに帰りの支度を終えて、
 各部の活動場所へ向かいましょう。繰り返します……』

午後3時55分。
桜風中学校に、放送係のアナウンスが響く。


(まずいな、遅れる……)

美術室へと続く廊下を走っているのは、2年3組の橋本沙由里。
彼女は、この中学校の美術部員なのだ。


「遅くなってごめんなさい!」

言いながら、がらりと扉を開く。
『大丈夫、先生居ないし』と言われて、沙由里はほっと息をついた。


「沙由里さん、この前応募した学校の絵、
 入選したそうよ、おめでとう」

「えっ?ほ、本当ですか?」

「ええ。沙由里さん、最近調子がいいわね。
 絵もかなり上達してるし、とっても凄いわ」

「いえ、まだまだですよ……。
 でも、麗奈先輩に言われると嬉しいです」


さわやかで無邪気な沙由里の笑顔に、麗奈も顔を綻ばせる。
彼女——水瀬麗奈は、3年4組の生徒だ。
ちなみに、美術部の部長を務めている。
それだけあって、芸術分野をかなり得意としていた。
そんな麗奈に褒められて、喜ばないはずがない。



「あーあ、あたしも麗奈に褒められるような才能が欲しいぜ……」

少々言葉遣いの荒いこの少女は、3年1組の原川亜美だ。
髪も短めに切っているせいか、女性らしさはあまり感じとれないが、
さばさばした性格や素直なところから、人気者ではある。


「私は、亜美の絵も好きよ。構図が大胆で斬新なの。
 ……そうだ、もしよかったら、一緒に絵を描かない?
 私、亜美からそういうのを学びたいのよ」

「本当か?いやあ、嬉しいな。いろいろ教えてくれよ!」

「私の方こそ、頼むわね」


麗奈と一緒に行動できることがよほど嬉しいのか、
亜美の笑顔はいつもの何倍も輝いている。
沙由里はその様子を見て微笑ましく感じながら、
同級生のもとへ机を寄せて、椅子に座った。


「さゆちゃん、すごいね……うらやましいよ♪」
「ぜんぶ鈴香ちゃんのおかげだよ、ありがとう!」


柏木鈴香は、2年2組の生徒だ。
クラスは離れているが、この2人は部活内で特に仲が良く、
沙由里はだいぶ前から鈴香に絵を教わっていた。
そのおかげでかなり技術が上達し、今の沙由里がいる。


「わたしも頑張らないとね!」
「あたしは全然ダメだよ、ははは」

気合の入った呟きを漏らしたのが、神谷美紀。
ツインテールにしたさらさらの長髪が特徴だ。
クラスは沙由里と同じ2年3組である。


美紀とは対照的に、諦めたように笑っているのが、
鈴香と同じ2年2組の生徒、佐倉優だ。
おさげにして、眼鏡をかけているという外見から
生真面目そうな印象を受けるが、
実際は明るくて元気で、お洒落が好きな普通の少女である。