社会問題小説・評論板
- 第10話 【夕暮れの道】 ( No.13 )
- 日時: 2010/11/20 15:31
- 名前: 血吹 ◆FLNPFRRn8o (ID: uc6xDi5d)
——部活を終えて自宅へと向かう琴乃は、
疲れ切ったような表情で、真っ赤に染まった夕焼け空を見つめている。
そのせいだろうか、足取りはおぼつかない。
(沙由里ちゃん、大丈夫かな……)
——電話をしたら、まずはじめになんて言おう?
——突然本題に入るのも気が引ける。
——いや、やはり単刀直入に切り出すのが一番だろうか。
「……琴乃」
突然声を掛けられて、琴乃はばっと振り返った。
そして、俯いたままの麗奈を視界にとらえる。
影がかかっているせいで、麗奈の表情は見えない。
しかし、笑顔ではないということだけはわかっていた。
「麗奈ちゃん……」
あんな出来事の後であるがゆえに、言葉が続かない。
何と言ったらよいのかわからない琴乃は、うろたえるばかりだ。
そんな琴乃にはかまわずに、麗奈は口を開く。
「……話したいことがあるの。一緒に、帰れるかしら」
「あっ、もちろん大丈夫だよ!」
「……ありがとう」
麗奈が礼を述べたのを皮切りに、2人は再び歩き始める。
隣に居る麗奈の横顔をうかがいながら、琴乃は尋ねた。
「それで、話したいことって……?」
「……ただの愚痴、でしかないわ。
ごめんなさい。どうしても誰かに……聞いてもらいたかったの」
麗奈の言葉に、琴乃の心臓がどくん、と波打つ。
そして、なんだかよくわからない喜びが体中を駆け巡った。
同時に湧いてきた罪悪感と一緒にそれをかみしめながら、
彼女は心の中でぽつりと呟く。
(その“誰か”に、わたしを選んでくれたんだ。
……こんなときに不謹慎だけど、ちょっと嬉しいな)
彼女の呟きが麗奈に届くことは当然ない。
麗奈は自らの美しい黒髪をかきあげながら、言った。
「私ね、どうしても沙由里さんが憎いの。
……憎くて憎くて、たまらないの。
私はあの子のことを、親友として見ていたから。
“一番に”信頼していたから。
裏切られて、悲しいのよ。
大好きだった分、信じていた分、憎いの……」
大切な親友であるはずの麗奈の言葉が、
なぜか琴乃の胸に重くのしかかる。
……一番に信頼していたから……。
(それじゃあ——麗奈ちゃんは——
わたしよりも、沙由里ちゃんの方を……)
「それは、別にいいと思うよ」
「……え……?」
——気づいたら、口を開いていた。
「当然だよ、裏切られたんだから。
麗奈ちゃんは、優しすぎるの。いい子すぎるんだよ。
憎んじゃいけない、怒っちゃいけない、って。
だって、わたしだって憎い。
麗奈ちゃんを悲しませた沙由里ちゃんのこと、心の底から憎んでる」
そう言って、琴乃は悲しげに微笑む。
それを聞いて安心したのだろうか、麗奈もかすかに微笑んだ。
「……ありがとう、琴乃。少し、気が楽になったわ……」
「そっか、良かった。
いろいろあって疲れてるだろうから、
今日は早めに寝た方がいいよ」
「ええ、そうするわ……じゃあ、また明日」
「うん、ばいばい」
2人の少女が、くるりと背を向けあう。
彼女達を照らす真っ赤な夕日は、恐ろしいほどに美しかった。