社会問題小説・評論板

第11話 【選択】 ( No.14 )
日時: 2010/11/07 19:42
名前: 血吹 ◆FLNPFRRn8o (ID: bHw0a2RH)

(わたし、何を言っているの——!?)


家のドアを開けるなり、
ただいまも言わずに自室に飛び込んだ琴乃は、
ベッドの上で膝を抱え、震えていた。

(沙由里ちゃんは犯人じゃないって、信じてたはずなのに——!!)


麗奈に言った言葉を思い出しながら、
琴乃は自分の罪深さをかみしめる。
——彼女は、確かに沙由里は犯人でないと考えていた。
いや、確信していたと言っても過言ではない。

しかし、彼女は確かに『沙由里が憎い』と言った。
それが本心から出た言葉であるということは、
彼女自身が一番よく理解している。


『“一番に”信頼していたから』


麗奈の言葉を思い出す。
同時に、頭を殴られたような衝撃をおぼえた。


(あ、そっか、……わたし……)


涙のせいで、視界が歪み、ぼやける。
こんな風に見えるのも、悪くないかもしれない。
ぼんやりとそう考えながら、どさりとベッドに体を投げ出す。



「沙由里ちゃんのこと、ねたんでたのか」


悲しげな呟きは、静寂の中に消えてゆく。
琴乃の頬を、ひとすじの涙が流れ落ちた。
彼女の体が震えることは、もうない。


「ごめんね、沙由里ちゃん。
 ……わたしは、麗奈ちゃんの一番の親友でいたいんだ」



乾いた笑いをこぼしながら、携帯電話を取り出す。
それから、メールアドレスの一覧を表示させた。
ボタンを操作する指から、迷いは微塵も感じられない。

カチ。
カチ。

——携帯電話のボタン操作音が、やけに大きく響く。
多少耳ざわりに思いながらも、琴乃は黙って操作を続けた。

カチカチカチ。
カチカチカチ。


数分ほどかけて、琴乃は沙由里のメールアドレスおよび、
電話番号を拒否リストに登録し、削除してしまった。
彼女は結局、沙由里を捨てたのだ。

もう潤んでいない、強ささえ感じさせる瞳で夕焼け空を眺める。
——後戻りは、できないんだ。
自らに強く言い聞かせて、ぎゅっと拳を握りしめる。







「琴乃ー? ただいまくらい言いなさいよ。
 あと、お夕飯できてるからね〜」


階下から響く母の能天気な声を耳にして、
琴乃は携帯電話をベッドに放り投げると、
今行くから、と元気に返事を返して、階下へと降りて行った。