社会問題小説・評論板

第13話 【希望の光】Ⅰ ( No.16 )
日時: 2010/11/11 17:36
名前: 血吹 ◆FLNPFRRn8o (ID: KFRilj6O)

ホームルームが終了し、10分間の休憩時間となった。

生徒たちは、いつもはばらばらに散って談笑をしている。
だが、今日は違った。
沙由里と2、3人を除いたほとんどの生徒が、
美紀、花梨、水穂のもとに集まっていたのだ。


美紀は美術部の部員で、花梨と水穂はその親友だ。
それゆえ、“沙由里が起こした事件”について聞きたい生徒たちは、
自然とこの3人のまわりに集まってくる。


「ねえ、水瀬先輩は大丈夫なの?」
「なあ、橋本って普段からうざくなかったか?」
「鈴香ちゃんのせいにしようとしたってマジ?」
「絵の方はどうしたの?」
「ていうかさ、もっと文句言ってもいいでしょ、橋本に」


興味本位の質問や、沙由里に対する悪口に、
3人は丁寧に答えを返していった。
——怒りに支配されたその表情は、どこか楽しそうにも見える。

沙由里は、頼みの綱であった美紀にさえも裏切られたのだ。



これ以上ここに居れば、また何かされるに違いない。
そう判断した沙由里は、教室を出て行った。
逃げたよ、というからかいの言葉に反応する余裕を、
彼女はもう持っていない。



(トイレにでも、こもっていようかな……)


そう思ったが、隣の2年4組からも自身に対する悪口が聞こえてくる。
トイレに行くには、この教室前を通らなければならない。
沙由里は仕方なく、3組の教室の隣にある
開け放たれた進路相談室に身をとどめることにした。


「……沙由里っ!」

ガラ、と扉が開かれる。
そこに立っていたのは、雨宮雫だった。

彼女は、小学生時代からの沙由里の親友だ。
ポニーテールにした背中まで伸びる黒髪が美しい。
大人びた、どことなく神秘的な雰囲気が特徴である。

2人は、周囲に声が漏れないようにとドアを閉め、
小さな声で話を始めた。


「し、雫ちゃん……」

「何があったのか、教えて。
 ……あの噂、真実じゃないよね」


どうやら雫は、初めから沙由里の無実を信じていたらしい。
それを知って、沙由里はおもわず泣き出した。
その様子を見て、雫はさらにうろたえる。


「ご、ごめん……急に。
 今じゃなくてもいいから、その……本当のことを教えて」


「……違う、……っ、違うの。
 し、雫ちゃんだけはっ……雫ちゃんだけが
 信じてくれたからっ……あ、う、嬉しくてっ……

 す、鈴香ちゃんも、美紀ちゃんも、優ちゃんも、
 ほかのみんなも、誰もっ……信じて、くれないのっ!
 それで、私、いろいろ、されてっ……

 ふぐっ……雫ちゃん、あ、ありが、とう……っ」


顔を涙でぐしゃぐしゃにして、
声をひそめたまま自らの想いを伝えようと必死になっている沙由里を見て、
雫は沙由里がどれだけ辛かったのかを想像し、胸を痛めた。



「……沙由里、やっぱり、話は後にしよう。
 昼休みに、えーと……そうだ、工作室で待ってるよ。だから……」


いいよ、と、沙由里は雫の言葉をさえぎった。
ここは沙由里に従おう、と判断して、雫は沙由里の言葉に耳を傾ける。