社会問題小説・評論板

第13話 【希望の光】Ⅱ ( No.17 )
日時: 2010/11/12 21:07
名前: 血吹 ◆FLNPFRRn8o (ID: HyhGJdk5)

「なに、それ……」

——事情を聴き終えた雫は、唖然とした。
どうして安易に沙由里の主張を切り捨てられるのかが
どう考えてもわからなかったからである。
どうやら、彼女は『まともな人間』だったらしい。


「……聞いてくれて、ありがとう……
 授業に遅れるから、もう、行くね……」


涙をぬぐって、沙由里はふらふらと立ちあがった。
その様子は、どう見ても危なっかしい。
彼女が精神的に大きなダメージを受けていることは、誰が見てもあきらかだ。


——こうしている間にも、容赦なく時は刻まれてゆく。
授業が始まるまで、あと2分ほどしかない。
時とは非情なものだ、と雫は思った。



「沙由里、昼休みに、工作室で待ってる。
 それから、えーと……2階に上がって、
 朝名さんのところに行こう。

 ……これは私の推測でしかないけど、
 もうひとりの、河野さん、だっけ?
 そっちは、たぶん駄目。
 話を聞く限り……朝名さんを問い詰める方がよさそう」



沙由里は、こくりとうなずくだけだった。
正直にいえば、恐怖感からそんなことはしたくなかったが、
雫の気遣いを無碍に断るのも嫌だったのであろう。


「……それじゃ、戻るね。
 何かあったら、私のところに来て」


「——ありがとう」


弱弱しく笑って、沙由里は教室へと向かう。
雫はその後ろ姿を、悲しそうに見つめていた。

——いつもと変わらない、どこか間抜けなチャイムの音が響き渡る。
廊下に出ていた生徒や、トイレに居たらしい生徒が慌てて駆け出す。
沙由里もその中に居て、ごく普通に生活をしているはずだったのだ。


(一体、沙由里が何をしたって言うの……?)


雫は、答えの出ない疑問に苦しめられながら、
まるで何かから逃げるようにして走り出した。