社会問題小説・評論板

第2話 【悪女のたくらみ】 ( No.3 )
日時: 2010/10/17 15:35
名前: 血吹 (ID: 5ky72w0o)

外は闇色に染まり、鎌のように細い月が空に輝いている。
鈴香の部屋にある掛け時計の針は、午後6時30分を指していた。

「はあ、今日も疲れた……」

呟きながら鞄を置いて、白いカチューシャを外す。
そして鏡の前にあったヘアゴムを使い、
綺麗な長髪を後ろでひとつに束ねた。


「ほんとはこっちの方が楽だけど……
 あの髪型の方が、優しい雰囲気になるんだよね」


鏡を見ながら独り言を漏らし、ため息をひとつつく。
——彼女は、人気者でありたいという願望を持っていた。
それゆえ、周囲の人間の評価や印象をかなり気にしている。




「それにしても……橋本の奴、ほんっとうざい!!」

少しばかり声を荒げて、クッションを殴りつける。
弾力性に富んだクッションが、鈴香の手を傷つけることはない。
ぼすん、と間の抜けた音が響いた。


「なにが、『鈴香ちゃんのおかげ』だよ……
 本当は馬鹿にしてるんじゃないの!?
 あーもう、こんなことなら
 あいつにアドバイスなんかするんじゃなかった!」


彼女が沙由里に絵の技術を教えたのは、
自分のイメージアップを図りたかったからであって、
決して沙由里に技術を上達させてほしかったわけではない。
むしろ逆に、沙由里は自分より下に置いておきたかったのだ。

……それも当然と言えば当然なのかもしれない。
沙由里が技術を上達させるまで、
技術の高さは、1、2年生の中で鈴香がトップだったのだ。


「もう、ほんっと最悪……」

般若のような形相をしたこの少女と、
美術部でにこにこと微笑んでいる鈴香が、
同一人物とは到底思えない。

——そう、鈴香のあの無邪気さは、すべて演技だ。
本当の鈴香は……嫉妬深く、意地悪。


「あ……そーだ。
 邪魔でムカつく奴なら、とことん追い詰めて、
 早く追い出しちゃえばいいじゃん☆はははっ。」

そして——“狡猾”だった。


小洒落た掛け時計が、崩壊までの時を刻んでいる。
明日にはきっと、美術部の平和な活動風景はないのだろう。

鈴香は、にやりと不敵な笑みを浮かべた。