社会問題小説・評論板

Re: 私は反旗を翻す【若干実話 六話up】 ( No.13 )
日時: 2010/12/13 17:06
名前: 涼原夏目 ◆YtLsChMNT. (ID: m26sMeyj)

  第七話「どうして?」

その後、キャンパスと絵の具と筆を鞄の中に入れて友人とろくに会話もせず家へと帰った。
幸い両親は仕事で居ない。ゆっくりと作品を描けるには絶好の機会。
さっさと筆を出して絵の具を出して絵を描き始める。
パレットには赤、黄緑、黄色、オレンジ。

暖色系の色ばかり。
先生の好きな色。
先生の好み。
それしか肯定されない。
そんな絵を描く。

(いや……そんな事より、早く仕上げよう)

怒りのループに入りかかっている私は自分自身に言い聞かせるように首を振る。
いけない。今そんな事を考えていたら良い作品だなんて出来やしない。
そして気を紛らわせるように筆を素早く動かした。

……それで本当に楽しいの? それが心から書きたい絵なの?

自然と心の中の自分が問いかけてくる。
楽しくなんかない。
面白くないし、苦しいだけ。
手が震える。そして耐え切れず涙が零れてくる。
涙は頬を伝って自分の手の甲を濡らす。何粒も、何粒も涙が流れ続けていた。

「っ……うぁっ……ふ、っ……」

分かってる。自分が今楽しくないだなんて事は十分に知っている。
自分の思い通りに描けないでこんな理不尽な思いばっかしているのだって知ってる。

でも、それでも作品を仕上げないといけない。


————————それでも涙を堪える事なんて到底出来なかった。


こんな事ばっかりある部活に、いや、先生に出会いたくなかった。
自分の思い通りにゆかないと怒るだなんて、それこそ自己中の極みだ。
涙で濡れている手の甲でさらに流れる涙を拭う。必死で歯を食い縛っているお陰で嗚咽は漏れない。

どうしてこんな目に合わないといけないの?
どうして好きな絵を描いてはいけないの?
どうして理不尽な思いをしているの?
どうして? …………どうして?

(分か、るわけ、無い……じゃん)

心の声すら涙のせいで途切れ途切れになっている。目からは手で拭いきれない程の涙が出ていた。
そして私はキャンパスに涙が零れないよう、必死で描く事しか出来なかった。

「は、やく……仕上げよ、う…………」

ようやく自分に言い聞かせるような声を発せられた。そしてティッシュで目を拭く。
心はともかくとして、気分的には何とか落ち着いてきた。
そんな事を考えていると何故かまた涙が出てきそうになったので考え無い事にしておく。
そして黄緑色の絵の具でチューリップの花から無数の葉っぱが出ている所を描いていた。


早く、早く仕上げてしまおう。
もうこんな思いなんて絶対にしたくないから。

……涙が出ないように必死で歯を食いしばりながら絵を描くのに必死だった。

そうでもしてなければ、とてもでは無いがやっていられない。そんな気がする。