社会問題小説・評論板

Re: 生きる希望を下さい 【*修正中*】 ( No.103 )
日時: 2013/03/26 14:27
名前: 華世 (ID: gIDLNLr/)

♯22 喪失と崩壊



 それは父がいた頃の写真。
 写真の中の私たちは幸せそうに微笑んでいる。
 今にも声が聞こえてきそうなくらいに————


 父は国立病院の院長で、私たちの生活も裕福だった。
 一人っ子の私は父の跡を継ぐために、幼い頃から英才教育で育てられた。
 両親に期待され、それに私も応えた。
 そして、私は名門私立小学校に入学する事が出来た。

 学校では常に上位。
 悪い気はしないし、両親も褒めてくれる。それは、幼いながらも嬉しい。
 友達だって多い方だったと思う。
 今思うと、あの頃は毎日が楽しかった。


 家庭が壊れ始めたのは、私が5年生に上がる頃の事だった。
 父が携わっていた手術で医療ミスが発生。
 全責任が父に重く圧しかかった。
 近所からも裏で言われるようになり、母は鬱状態になった。


 それから1ヵ月後、父が消えた。


 警察に捜索してもらったが、結局見つからなかった。
 4年経った今も行方不明である。
 母の鬱は悪化し、かつての面影は殆どなくなった。
 頬は痩せこけ、目は虚ろ。あまり飲まなかった酒も飲むようになった。
 私はなるべく迷惑をかけないように、必死に勉強した。
 医療の名門の私立中学校に入るために。

 しかし、“合格”の文字を目にする事はなかった。
 あと僅かな点数だった。
 だが、母は慰めの言葉すらかけてはくれず、私に冷たく言い放った。


『アンタなんて生まれて来なければよかったのよ!』


 嘘だと思いたかった。
 母はそんな事を言う人ではないと。
 私の目から雫が伝っていくのが分かる。
 そう、これは現実。


 今更思い返しても仕方のない事。