社会問題小説・評論板

Re: 生きる希望を下さい ( No.107 )
日時: 2013/04/04 11:51
名前: 華世 (ID: gIDLNLr/)

♯25 涙の告白



 月明かりに照らされ僅かに光る涙が、紗雪の頬を伝う。
 私は場違いにも、あの日見た夕空よりも綺麗だと思った。

「あのね、あたし……」
 紗雪の震えた声で、私はふと我に返った。
 躊躇いを感じているのか、次の言葉が出てこない。
「紗雪、落ち着いて」
 私はそう言うと、彼女の目を真剣に見る。
 紗雪は無言で頷くと、深く深呼吸をした。

 私は何を言われようと、現実を受け入れなければならない。
 それは、彼女を裏切った罪の裁き。
 紗雪は私の心情を悟ったのか、真剣な表情になり、口を開いた。


「あたしね、あと僅かな命なの……」


 刹那、私の体は凍りついた。
 あんなに元気だったではないか。いつも笑っていたではないか。
 本当に信じられなかった。気がつくと、何故か走り出していた。

 私は様々な感情を抱えながら、走っていた。
 何故、もっと早く言ってくれなかったのかという怒り。
 何故、紗雪が死ななければいけないのかという悲しみ。
 そして、紗雪に出会わなければ悲しみを知る事もなかったという後悔————
 そんな感情が私の脳内を駆け巡る。

 家に着いた私は、「ただいま」も言わずに自分の部屋に入った。
 階段の下からは母の怒鳴り声が聞こえているが、今はそれどころではない。
 私はベッドの上にある小さな枕に顔を埋める。
「何でよ……!」
 そして、紗雪を裏切ってしまった事に大きな罪悪感を抱いた。
 それから何度も、何度も泣いた。

 涙で霞んだ視界から見える月は、私の心とは裏腹に静かに優しく輝いていた。