社会問題小説・評論板

Re: 生きる希望を下さい ( No.110 )
日時: 2013/04/04 11:35
名前: 華世 (ID: gIDLNLr/)

♯26 偽りの表情で



 涙の告白から一夜明け、朝が来た。
 昨日の事もあってか、紗雪とは顔を合わせづらい。
 学校に行かない訳にはいかないので、急いで支度をして階段を降りた。
 そして、返答のない挨拶を済ませ家を出た。

 歩いている途中で、会いたくない人物に出会ってしまった。
「千聖、おはよー」
 由麻たちだった。後ろにいる二人の取り巻きも私に向かって手を振る。
「おはようございます……」
 少々控えめに挨拶をすると、由麻は大げさに笑いながら私の背中を叩いた。
 取り巻きたちも不適な笑みで笑っている。
「そんなに改まらなくたっていいのよ。だってあたしら仲間じゃない?」
 私は“仲間”という言葉が心の中で引っかかった。
 由麻たちの仲間という事は、紗雪を裏切った事と同じ。
 実を言うと、紗雪の元に戻りたかった。
 そんな事も今の私には言えるはずがなく、ただ偽りの表情を浮かべて過ごすだけ。

 遅刻ギリギリで学校に着いた私たちは、由麻を先頭に教室に入った。
 その瞬間、皆が一斉に「おはようございます!」と頭を下げた。
 由麻と二人の取り巻きはいつも通り挨拶を返している。
 私は今にも消えそうな声で挨拶をしてから、自分の席に着いた。

 しばらくして、私はいつもと何かが違う事に気がついた。
「紗雪が、いない……?」
 誰にも聞こえない声で呟き、教室を見渡す。
 紗雪の席だけが寂しく虚無に包まれていた。