社会問題小説・評論板

Re: 生きる希望を下さい 【参照1000突破記念に…】 ( No.113 )
日時: 2013/04/05 10:22
名前: 華世 (ID: gIDLNLr/)

♯28 昂る鼓動を抑えて



「ねえ千聖、今からゲーセン寄って行かない?」
 放課後の夕日が差し込む教室で、口元に弧を浮かべ由麻が言う。
 真っ赤な夕日が由麻の顔を照らし、より一層不気味さが増した。
「今日用事が入っているの。ごめんなさい……」
 母に怒られる事が怖かったので、私は恐る恐る断った。
 すると、由麻はあっさりと分かった、と答えて取り巻きたちを連れて教室を出て行った。
 誰もいなくなった教室の中で、私は安堵の表情を浮かべた。
 それにしても、由麻があっさり了解した事が怪しかった。
 いつもならもっと、しつこく誘ってくるはずなのに。
 私は不安と恐怖に駆られながら教室を後にした。

 それにしても紗雪はどうしたのだろう。
 出席確認の時、担任はただ休みとしか伝えなかった。
 あの時逃げてしまったが、許してくれるだろうか。
 私は心配になり、紗雪の家に向かうことにした。

 学校から7分程歩いたところに紗雪の家が建っている。
 白と茶色の煉瓦で造られた外壁は、どこか西洋を感じさせられる。
 私は黒のアンティーク調の門を開き、インターホンを押した。
 しばらくして玄関から出てきたのは、紗雪の義母と思われる女性だった。
「あら、こんにちは。どうぞ上がって」
 女性はたおやかに微笑んで、私を招き入れた。
「こんにちは。お邪魔します」
 家の中も西洋風な造りになっていて、玄関の上は吹き抜けになっている。
 私は昂る鼓動を抑えながら、女性の後をついて行った。
「紗雪、お友達が来てるわよー」
 上品な口調で紗雪を呼ぶ。すると、中から控えめにどうぞ、と声がした。
 女性は無言で頷き、私を中に入れた。

「千聖……!」
 紗雪は私の顔を見ると、驚きと喜びが混ざったような表情で両手を挙げた。
 私も両手を挙げながら紗雪の元へ駆け寄った。