社会問題小説・評論板
- Re: 生きる希望を下さい 【38話 更新】 ( No.135 )
- 日時: 2013/04/22 19:48
- 名前: 華世 (ID: gIDLNLr/)
♯38 笑顔は夕日に照らされて
「とうとう捕まっちゃったね、宮坂さん」
放課後の教室。女子たちの間では、由麻が捕まった話で持ちきりだった。
次から次へと話は流れていき、最終的に全校中に広まった。
私は半ば呆れながら彼女たちの話を聞いている。
「昨日も万引きやら何やら問題起こしたんでしょー?」
「でも正直さ、捕まって良かったよねー」
安心した事に変わりはないが、もう由麻を悪く言うのはやめて欲しい。
不良だとはいえ、彼女はクラスメイトの一人。
私がそんな事を考えていると、一人の少女が立ち上がった。
三島玲。私たちのクラスの女子学級委員だ。
栗色がかったゆるい三つ編みが僅かに揺れた。
「もう宮坂さんを悪く言わないで。これはわたしたちにだって責任はあったのよ!」
教室に残っていた生徒たちが一斉に振り向く。彼女は夕日を背にして立っていた。
由麻の陰口を言っていた女子たちも玲の方を向く。
「神崎さんと森川さんを無視するように言われた時、宮坂さんの言う事を聞かなければ良かったのよ。そして彼女の薬物乱用も止めていれば……!」
玲のこんなにも悔しそうな表情は初めて見た。
今まで何事にも冷静で、真面目に仕事をこなしている所しか見た事がなかったから。
「神崎さん、今まで無視していてごめんなさい。宮坂さんに見つかるのが怖くて手を差し伸べられなかった……」
玲は私に向かって頭を下げた。その姿を見た残りの生徒たちもゆっくりと頭を下げる。
「神崎。今までごめん」
「千聖ちゃん、本当にごめんね!!」
陰口を言っていた女子もとうとう謝った。目には薄っすらと涙が浮かんでいる。
「さっきはあんな事言ってごめんなさい。もう二度と同じ過ちは起こさないから」
私は皆の言葉を聞いて強く頷いた。
皆の表情は次第に晴れやかになり、夕日が頬を照らす。
「あと僅かな時間だけど、最後までお互い助け合って過ごしましょう!」
玲の言葉に皆が笑顔で返す。
沈みかけた夕日を見送り、私たちは教室を後にした。