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社会問題小説・評論板
- Re: 生きる希望を下さい 【金賞有難うございます!!】 ( No.170 )
- 日時: 2013/10/15 17:54
- 名前: 華世 (ID: gIDLNLr/)
♯48 近づく別れ
紗雪からの連絡が入ったのは、それから約一週間後の事だった。
いつもと変わらないはずの着信音が、昨夜から降り続いている雨に混じって妙に大きく聞こえる。
灰色の空が泣いている。それは、私の心の中を映しているかのように。
——嫌な予感がする。
不安になり、受信したメールを恐る恐る開く。しかし、そこに本文はなく“END”としか書かれていない。
「まさか……」
考えるよりも先に足が動いた。玄関の扉を思いっきり開け、外へと飛び出す。
家の中から聞こえる母の声すら耳に入らない。それくらい私は必死だった。
そうでもしないと、紗雪と会えなくなる気がして。
病院に着いた私は全速力で長い階段を上る。
窓から僅かに見える桜の木に止まっている雀は、何も知らずに私を見下ろしている。
恐る恐る病室の扉に手を伸ばした。自分でも驚くほどに震えているのが分かった。
感情に委ねて扉を開いたその瞬間——
「紗雪……!?」
数え切れないほどの管に繋がれた彼女が、見た事がないくらいに苦しんでいた。
病室は紗雪の乱れた呼吸と時計の秒針の音しか聞こえない。
「先生! 紗雪は……大丈夫なんですか!?」
相澤先生の元へ駆け寄り問いただす。隣で座っていた千鶴さんも不安そうに先生の顔を見ている。
それでも先生は何も答えずに、ただひたすらと眉間に皺を寄せるだけで。
その時点で私と千鶴さんはもう悟ったはずだ。別れはすぐ側だ、と。
先生の目線の先にいる紗雪を見るだけでも私の心は抉られるかのように痛かった。
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