社会問題小説・評論板

Re: 生きる希望を下さい ( No.19 )
日時: 2013/07/26 17:49
名前: 華世 (ID: gIDLNLr/)

♯5 私の大嫌いな言葉



 1限目が始まった。
 初めの授業が数学だというのが気に入らない。
 黒板に書かれている文章を写している私の顔は今、退屈そうに見えるだろう。

 数学の時間の教室は何故か静かだった。まるで時間が止まっているかのように。
 それでも、時間が刻々と進んでいるのは事実であって。
 ふと時計に目を移すと、授業開始から20分が経っていた。
 無意識のうちに、こんなにも時間が過ぎていたのかとつくづく思う。
 その時、教師が口を開いた。

「では、この問題を解いてくれる人」

 私は黒板に目をやった。なかなかの難問だったが、全部解ける範囲だった。
 でも、私は挙手をする気は無い。
 問題は解けるのだが、頭の中で考えているだけで口には出さない。
 その理由はたった一つ。
 “注目されるのが嫌だから”だった。

 そのせいで、成績表は5と4の間を彷徨っている。
 教師は、挙手をしていれば普通に5は取れると言う。
 分かっているけど、出来ないのだ。
 私が目立ってはいけないような気がして。


 ようやく1時間目が終わった。学級委員が号令をかける。
「起立、礼」
「「「ありがとうございました」」」

 今の私は“ありがとう”という言葉が大嫌いだ。
 この言葉に憎しみさえ覚える。
 あえて、口で言うふりをして声には出さなかった。