社会問題小説・評論板

Re: 生きる希望を下さい ( No.48 )
日時: 2013/04/04 13:33
名前: 華世 (ID: gIDLNLr/)

♯11 小さな挑戦、大きな勇気



 森川紗雪。本当に妖精のようだ。
 彼女の笑顔は何よりも私を落ち着かせてくれて、何よりも安心する。
 母親の暴力を忘れてしまうくらい。


「私は神崎千聖。貴方に、友達になってほしいの……」
 喉に言葉を詰まらせながら、一生懸命気持ちを伝える。
 すると、彼女の表情が先ほどより明るくなった。

「……もちろん!」

 そう言って紗雪は、私に手を差し伸べた。
 私は彼女の白い手の上に自分の手を重ね、優しく握った。
「ありがとう……!」
 お礼を言ったが、紗雪はただ微笑むだけで何も言わない。


 それから30分は過ぎただろうか、時計は8時40分を指している。
 学校に行く気もないので、このまま此処にいようと思っていた。
 だが、紗雪は私の甘い考えを平気で覆した。
「ねえ千聖……学校に行ってみない?」
 私にとっては、驚くべき言葉だった。
「え、どうして」
「やっぱり此処にいても何も変わらないでしょう? だからあたしは行こうと思うの」
 紗雪は真剣な眼差しで私に話す。薄茶色の目が不思議な黄金色に輝いた。
 私は薄茶色の瞳に惹かれながら、無意識のうちに頷いていた。
「千聖も行くのね! じゃあ、走りましょう。もうすぐ授業が始まるわ」
 紗雪は走り出した。
 早口で話す紗雪に混乱しながら私も走る。
 街中を私たち2人が駆け抜ける。
 穏やかな風のように。