社会問題小説・評論板

Re: 死に方を知らない君へ。  ( No.36 )
日時: 2014/02/06 20:45
名前: 杏香 ◆A0T.QzpsRU (ID: HmBv7EUE)

 私はカレーライスを食べ終わると、食器を洗うために台所に立った。
 この家では、食器洗いはいつも私がしている。もちろん自分の分だけではなく、お母さんの分も洗う。
 私は早速腕まくりをしてスポンジを手に持ち、食器洗い用の洗剤をスポンジにかけた。そして少しだけ、スポンジに水を垂らす。
 私が食器の汚れをスポンジで落とし始めると、青色の洗剤はどんどん白い泡に変わっていった。
 真冬の水はとても冷たかったが、お湯を出すなとお母さんに言われているので耐えるしかない。なるべく無駄な水を使わないように気を付けながら、私は食器を洗っていく。

 食器を全て洗い終えるまで、15分程の時間がかかった。
 すっかり冷えて赤くなった手を、私は自分の頬に当てて温める。それでもやっぱり、手はそんなに温かくならなかった。
 不自由なく元通りに動くようになるのは、きっともう少し先の事だろう。

 私は手袋をした後、お母さんにバレないようこっそり胃薬を飲んだ。さっき食べたカレーライスが原因で、お腹を壊したくなんてなかった。
 隠れて薬を飲んだのは、お母さんに何を言われるのかが分からなかったからだ。
——私が何気なく時計を見ると、いつも家を出る時間を少し過ぎていた。
 どうやら、もうこんな時間になってしまっていたらしい。
 私は慌てて冬用のジャンパーを着て、きつくマフラーを巻く。それから重いランドセルを背負い、私はいつも通りお母さんに向かってこう言う。
「行ってきます」

 いつも通り、返事はなかった。