社会問題小説・評論板

Re: 死に方を知らない君へ。  ( No.48 )
日時: 2014/02/06 21:09
名前: 杏香 ◆A0T.QzpsRU (ID: HmBv7EUE)

 私がこんな事をするようになったのは、1年くらい前の事だったと思う。
 初めて恐る恐る手首につけた傷は、今はもう残っていない。鋭い痛みは確かに感じたけれど、血なんて出なかった。

……だが、それも当然の事だろう。
 あの時は恐怖ばかりが私の心を支配して、かすり傷しかつけられなかったのだから。
 しかしそれゆえに、私はよく覚えている。まるで昨日の事の様に思い出せる。
 初めて握った、カッターナイフの感触。手首に傷をつける事と、痛みへの恐怖。
 死にたいと嘆きながらも、リストカットすら満足に出来ない自分に対する失望感。
……あれから、もう1年も経ったのだ。
 なのにどうして、私はこんなにも無力で臆病なままなのだろう。
 死にたいと願いながらも死ぬ事を何よりも恐れ、自らを傷つける事さえ躊躇する。

 あの頃から突然襲いかかってくるようになった、自分ではどうしようもない程強い自殺衝動。
 私はそれに抗う事もせず、ただ無心に手首を傷つける。

 だからと言って、それで死ねる訳は無い。
 私は未だに"あの恐怖"に囚われ続け、自傷行為で血を流す事も出来ないのだから。それにそもそも人間の身体は、手首を少し傷つけたくらいでは死なないようになっている。
 死ねない事は分かっていても、私は自分を傷つける行為を辞めなかった。