社会問題小説・評論板

Re: 死に方を知らない君へ。  ( No.54 )
日時: 2014/02/06 22:01
名前: 杏香 ◆A0T.QzpsRU (ID: HmBv7EUE)

——何だか、心にぽっかり穴が空いたみたいだった。
 でも、それで良いと思った。
 私は座り込んだまましばらくぼうっとしていたが、ある時はっと我に返る。
 今は一体何時だろう……ぼんやりとした意識のまま時計に目をやると、もうそろそろ夕食の準備が始まる時間になっていた。
 そして私は、一気に現実に引き戻される。
 もうこんな時間か……急がなきゃ。早くしないと、またお母さんに怒られてしまう。
 この時間になると私はいつも、お母さんの手伝いをしに台所へ行く。
 お母さんの手伝いをしなさい、と直接言われた事はない。でも……私が手伝いをしなければ、お母さんは嫌味を言って私を繰り返し殴るのだ。
 "あんたは良いわよね、黙ってるだけでも食事が出てくるんだから"と。
 そんな嫌味を、進んで言われたい人は居ない。だから実質、強制されているようなものだった。
 私は溜め息をつきながらすっくと立ち上がり、もう昔の写真が入っていないアルバムを元の場所に戻す。
 それが終わると、私は急いで台所に向かった。

 お母さんが居たのは、台所ではなくリビングだった。相変わらずお母さんはテレビ番組に夢中な様子で、端っこで立ち尽くしている私には全然気付いていないみたいだ。
 ちょっと早かったのかな……そんな事を思っていると、私に気付いたのかお母さんがちらっとこっちを振り返る。
 そして、ぶっきらぼうにこう言った。
「今日はコンビニ弁当だから」
 その一言だけで、私が何をすればいいのかは十分分かりきっていた。