社会問題小説・評論板

Re: 死に方を知らない君へ。  ( No.64 )
日時: 2014/02/06 22:13
名前: 杏香 ◆A0T.QzpsRU (ID: HmBv7EUE)

 最初は確か、平手打ちだったと思う。
 そこからどんどんエスカレートしていき——私の身体には、幾つもの傷跡ができるようになった。
 怒られた原因の1つ1つを思い返す事は出来ないけれど、痛かった事と"殴られた"という事実は今でも私の心に深く刻まれている。
……それからもう1つ、まだ覚えている事がある。
 それは、お母さんが私を殴る時の目だ。奇妙な愉悦さえ浮かんでいる、あの目。
 私の中では殴られた痛みよりも、あの目を見た衝撃の方が大きかった。
 普段はあんなに優しいお母さんが、どうしてあんな目をするのかという疑問だけが私の頭を駆け巡っていた。
……そこまで思い出した所で、私はそれ以上思い出すのを止めた。
 今更思い出したって、何かが変わる訳じゃない。今度こそ、本当に忘れるんだ。
 私はそう決心して、もう1つのおにぎりの袋を開け始める。

——丁度その時ニュースが切り替わり、話題の中心は虐待の話になった。
「昨日未明、6歳の女児が虐待によって亡くなりました」
 アナウンサーが、的確に文章を読み上げる。