社会問題小説・評論板

Re: 暗闇の世界で、翼は溶けていった。 ( No.21 )
日時: 2012/03/13 20:48
名前: 来夏 ◆HpxJ7yQkz. (ID: fckezDFm)



 episode 椎名杏子Ⅲ


「でも、わたしは……居場所が」
「俺が一緒に居る。でも、そのためにはよ」

 赤い携帯を操りながら、大和は笑いながら言った。

「裏切らなきゃ、一緒に居れねぇ。杏子に、虐めをして欲しくない」
「……」
「俺、虐めはあって当然だって思ってる。けど、大切なヤツが虐められるのは嫌だ」

 そういうのを、偽善者って言うのだろうか。けど、大和は———

「何でそこまで、してくれる、の?」
「俺の大事なものだから、って事。つか俺も偽善者だよな、他のヤツがどうでも良くて、大事なヤツはダメだ…って」

 大和はそう呟くと、赤い携帯を閉じた。そしてわたしを見た。その瞳は、濁りも無かった。


「とりあえず、抜けるってメールしといた」
「大和……」
「よし、これで杏子と一緒に居られる」

 そう言って、大和は笑った。子供の笑顔ではないにしろ、でも素直に笑っていた。
 不良だとは思えないほどに。


 暴力を受け、悪戯をされ、脱がされ、傷をつけられて。
 そんな酷い記憶がある学校に、行かなきゃいけない。
 
 本当は怖い。けど、行かなきゃ。大丈夫だ、この人が居れば———。この人を、わたしの様にはさせない。今、ターゲットになっている二人も、わたしの様にさせたくない。


「———大和。わたし、行くから」
「ん? 今、何つった?」
「学校に行く」


 大和を見ると、大和は驚いていた。わたしはさらに言い続ける。


「怖いけど、行くから。わたしみたいに、大和がなって欲しくない。だから、行く」
「……マジ?」
「うん。一緒に居るから」


 そう言った時だった。
 大和の携帯の着信音が聞こえたのは。