社会問題小説・評論板

Re: Re:愛してる ( No.53 )
日時: 2012/04/27 22:26
名前: おかゆ (ID: 7TIhQdvp)



始めの変化が起こったのは夏休みに入る少し前だった。

「・・・・あれ?」


愁がいつも持っていた台本がなくなっていたのだ。

「翔、俺の台本知らない?」
「台本?いつもお前が持ってるやつか?」
「そう。おかしいな・・机の中にしまってたはずなのに・・」


「・・・・・なぁ」
「ん?」


俺が何気なく見たゴミ箱の中。


「——・・これ、お前の台本・・?」
「・・え?」


ほこりや消しゴムのカスでよごれていた愁の台本があった。


「・・・・誰が・・こんなこと・・」

すぐに愁は台本をとり、ほこりなどを払った。





次の変化は夏休みが終わったあと。


中三ともなると夏休みが終わったあとはピリピリした奴も多かった。


だからなのか。


愁はいつもストレス解消として扱われるようになった。



「お前女っぽくね?」
「その台本ぼろぼろじゃん。俺らが綺麗にしてあげよっか?」
「ちょ、何その顔。まじうざいんだけど」


耳に残るような笑い声。そのたびに耐えていた愁の顔。


今でも忘れられない。


「やめろよ」
「うっわ。こいつ何マジになってんの?」


気が弱くてちょっと怖がりなくせに頑張って。


俺はそれにかかわりたくなかった。

だから『傍観者』になった。



そして変化は次第に大きくなっていく。



「・・・っ」

受験のストレス。しだいに暴力も増えてきた。




「おい、」



「やめろ。さすがにかわいそうだ」




見てられなくなって、ついとめた。
今だったら当たり前にとめるはずなのに。


『つい』なんて言葉・・あのときの俺は本当にどうしようもない人間だった。


驚いた愁の顔。そしてどこかほっとしたような顔をしていた。




英雄のようになりたかった。

愁を助けて、俺はすごい人間なんだって、愁に『ありがとう』と言って欲しくて。


市川の言う『偽善者』がしっくりと当てはまっていた。

『かわいそう』って言葉だって愁を完全に上から見ていて。
でもみんなの目には俺は







完璧な『英雄』のようにみえていたんだ。