社会問題小説・評論板

Re: 私と依存症 ( No.1 )
日時: 2012/03/20 16:58
名前: Banira (ID: 4NhhdgqM)

嘘をつくのにはそれなりの覚悟がいる。

○○ちゃんって好き?って聞かれると、否定はできない。
そういう世界で私たちは生きている。
それはもう当たり前のことで、今更なことでもある。





「ねえね、池澄さんってさ、なんか絡みづらくない?」

中二に進級してすぐ、悪口という名のコミュニケーションが始まった。
進級してから3回目の昼休み。
絡むも何も、そんなに日も経ってないのに・・・。

「イケスミさん?・・・って、ごめん、誰?」

話しかけてきたのは、学級委員長になったナオちゃんだった。
ナオちゃんは宮尾奈緒子(みやおなおこ)と言って、
一年でも同じクラスだった子だ。

「ほら、環境委員の子! 表情暗くて、一年の時ぼっちだったらしいよ」

ナオちゃんが嬉しそうに喋る。
ここで「そんなこと言っちゃ駄目だよ」とでも言えば、
一年間の友情なんか一気に無くなる。

「あー・・・なんとなく知ってるかも。暗いとなんかヤだよね」

曖昧に、遠目に同意した。

(委員長のナオちゃんくらいだよ、誰がどの委員会入ってること覚えてるとか)

心の中で毒づく。環境委員と言われて、思い出すはずもない。

「だーよーねーぇっ! ヤだよね! アイツめっちゃ暗いもんね! 
 んでね、まゆりが前、一緒のクラスだったらしいんだけど、アイツ何されても親とか先生に言わなかったらしいの! 
 ちょっとありえなくない!?」

少々声が大きくなったナオちゃんに、私は笑顔を作りながら、聞いているフリしかできなかった。
さっきまで『さん』付けだったのに、アイツ呼ばわりになっている。

(ナオちゃん・・・前は悪口とか嫌いだったのにな)

複雑な心境だった。何となく、気分が悪かった。

まゆりと言うのは、ナオちゃんの保育園からの友だちで、
私はあまり会ったことはなかった。
でも、可愛くて、体育祭でリレー選手だったため、人気がある子だと推測している。
二年になって、同じクラスになっていたので、
これを機会に仲良くしようと思っていた。

「んでんで・・・あっ! これは、他の人にバレないように見てね・・・?」

ナオちゃんが、何かを握った手を差し出してくる。
依然、笑顔のままのナオちゃんに、悪い予感を感じた。

何だろうと思って受け取ると、小さくたたまれたメモ紙だった。

『きもい&うざい&暗い池澄をいじめる会』

もこもこした羊の、可愛いメモ紙。
その内容は、池澄さんをいじめる内容だった。
可愛い字で、何人かの署名がある。
その中に丸っこい字で、『なおこ』とあった。

「・・・? なにこれ」

ナオちゃんを見ると、「見てわかんないのーっ?」っと、
軽くため息をついた。

「池澄さんを虐めるのに賛成の人は名前書いてるの。 あっ、これを考えたのはウチじゃないよ? まゆりだよ?」

あくまでも他人のせいだった。
ナオちゃんの名前がある時点で、ナオちゃんは賛成派なのだ。
そしてこのメモを見せたということは、ナオちゃんは私に『書け』と言っている。

ここで名前を書くのは気が引ける。

でも、書かないのは、この世界での禁止行為《タブー》であることも、
私は分かっていた。

嫌な顔をしないようにして、私は筆箱からシャーペンを出した。

「あっ、書いてくれんの!? さっすが〜! 空気読める子はいいね!」

ナオは親指を立てて、最高の笑顔ではにかんだ。

『きくの』と、ナオの字の隣に書く。
相沢 菊乃(あいざわ きくの)。両親にもらった、大切な名前。

それを、こんな所に書きたくなかった。

「もち、書くでしょ! ナオの親友だしね!」

無理矢理テンションを上げた。
苦しかった。
よく、知らない人なのに。

でもしょうがない。

こういう世界だから。

私たちは、この世界でしか生きることができないから。