社会問題小説・評論板

Re: お嬢様に虐められて虐めましょう。【お礼小説】 ( No.119 )
日時: 2012/12/11 15:53
名前: 黒猫ミシェル (ID: npB6/xR8)

「麻衣、腕を出しなさい」

「…はい」

お嬢様が私の腕を強く掴まれた。
傷一つない滑らかな肌。
それに比べて、私の何て醜いこと。
水仕事でささくれた手は、痒くて堪らない。
身体の至る所に汚ない傷跡や火傷の跡がついている。
何て、醜い私。

「あら…この傷、いつのだったかしら?」

「せ、先週っです…」

「ふぅん?…もう治りかけてるのね」

つつっとお嬢様の手が私の傷跡をなぞった。
ただそれだけなのに、私は鳥肌をたててしまう。
先週のことが否応なく思い出され、目の前が暗くなった。

「新しいのを作ってさしあげるわ。だって麻衣、好きでしょう?」

「…はい」

抵抗何て、考えられなかった。
ただ、理不尽な暴力に耐えるしかなくて。
泣いても、叫んでも、無駄なのは知っていた。
助けてくれる人なんて、ここには誰もいない。
もう、諦めるしか、耐えるしか、私にできることはなかった。

「ねぇ、何が良くて?火傷?切り傷?それとも打撲傷?何でもよくてよ?」

「あ…ぅ…私、は…」

「そういえばわたくし、針を使ったこと、なかったですわ」

「ぃゃ…」

「決めましたわ!今日は針を使って遊ぶのですわ!」

そう微笑むお嬢様はただ楽しそうで、無邪気だった。
私なんてオモチャなのだと、いくらでも変わりがきくのだとおっしゃった。
私の意思なんていつでも関係なくて、無視されて、踏み躙られて。
お嬢様の楽しみだけに汚くなっていく、私の身体は。
可哀想だとは、思われませんか?
哀れだとは、思われませんか?
ねぇ…神様?
それでも、それでも、私はお嬢様…。

「うふふ、ねぇ麻衣。どうですの?辛くて?痛くって?」

「あ"ッ!!」

「そう…その表情……」

「いッ、ぅ…くぅ…っ」

「悲鳴をあげたら許さなくてよ?」

そんなの、分かっていた。
私が悲鳴をあげたら最後、生きてはいないだろう。
いや、私のことなんてどうでも良い。
でも、父さんは?
執事の仕事に誇りを持っている父さん。
きっと、私がお嬢様の期限を損ねたら父さんにまで…。

「ほら、見なさい麻衣。綺麗でしてよ…」

「は、いっ」

うっとり目を細めているお嬢様。
私は脂汗を顔に浮かべていた。
余りの激痛に、意識が飛びのきそうだ。
それをありったけの精神で押し留める。

「麻衣、あなたはわたくしのオモチャですの。だから、何しても良いんですのよ」

「は、ぁっ」

「うふふ、ふふふふっ」

お嬢様、私はオモチャではありません。
父さんに、望まれて産まれたんです。
麻衣って、父さんが悩んで悩んで付けてくれたんです。
誕生日だってあります。
仲の良い友人だっていました。
お嬢様に仲を断ち切られるまで。

「麻衣、麻衣、あなたは死ぬまでわたくしのオモチャ…」

「っウ」

「オモチャはわたくしを裏切ることなどなくてよ?忠実な、オモチャですもの、麻衣は」

「い、たぁ、ッ!?」

神様は、不公平だ。
何故こんなにも立場が違くなるのだろう。
お嬢様と召使い。
それが私たちの関係。

「そろそろ辞めてあげてもよろしくてよ?」

「やめ、っ…」

昔は大好きだったお嬢様だけど、今は怖いお嬢様。
ただ、不憫だと思う。
心を開くことが出来ず、信じられる友さえいない。
そんなお嬢様を、誰が信じてくれるだろうか。

「楽しかったですわ、麻衣。麻衣もでしょう?」

「……はぁ、っあ、はッい……」

ねぇお嬢様。
早く気付いてください。
早く戻られてください。
あの時の、優しかったお嬢様に。