社会問題小説・評論板
- Re: 【能力】隔離病棟の黒白【バトル】 ( No.3 )
- 日時: 2012/08/03 21:51
- 名前: 茜崎あんず ◆JkKZp2OUVk (ID: 92VmeC1z)
「京が死んだよ〜」
機械だらけの白い部屋の中、僕は溜息を吐いた。
知ってるよそのくらい。焼き焦げたヒトの匂い、実験は失敗だった。
ぎしぎし呻く黒光りした鋼の義足。黄緑色の逆立てた髪。黒いヘアバンドを額に巻いて。
金色の目玉がらんらんと輝くその下、大熊猫みたいなどす黒い隈がよく目立つ。
「楠、僕は京の死に顔を見た」
「あはは」
声を上げて笑う楠。
「棗は昔からそーゆーとこ、薄情だったよね〜」
彼が立ち去った部屋でモルヒネの残り香が漂う。
僕は静かに目を閉じた。
◇◆ 第一話 棗の話 ◆◇
点滴を連れて冷たい廊下をぺたぺた。
透明な管が僕の頭に絡み付いて気持ち悪い。
僕のスキルは『影』。エネルギー発生源は頭部。
常時着用を義務付けられている黒いリボンは猫の耳みたいでなんか嫌だ。
後、おんなのこに間違われるのもごめんだし。
親はいない。
てゆーか、知らない。
気がついたら自分は棗で、気がついたら此処に居た。
危険スキルを持つ少年は強制的に隔離病棟に収容される。
月に一度響き渡る悲鳴は僕のともだちのモノ。隔離病棟では人体実験が自由にできるから、政府は容赦なく僕らを破壊するんだ。
「あっ」
躓いた拍子にチューブが廊下の端の消火器を倒してしまう。
僕のスキル効果を抑えるため投下された赤い薬品が零れることを祈った。
でも頑丈。僕は足を挫いただけ。
棗くん大丈夫なんて言う声は無いよ。隔離病棟は病院じゃない。サナトリウムよりも酷いホスピスよりも酷い。
ただの収容所だ。
一人で立ち上がる。位置のずれた腕への針が改めて痛いと感じる。
ふと前をみれば僕と同じ境遇の幼い子が喋ってた。新緑の芝、小高い丘、その先に咲き乱れる花たち。
いつかこの原っぱを抜けて、綺麗なお花を触ってみたいな。
僕は俯いて、そっと頷いた。
これは壁に描かれた絵だよ。緑のしばふも黄色いチョウチョも綺麗なお花だって全部。此処には存在しないんだ。
「言えないよね」
ああ、僕の世界に終わりはくるのかな。そんなことを考える。
淀んだ空気と青白い蛍光灯。
着物の裾から伸びる骨ばった足。
今の僕。
棗(ナツメ)
身長:156
体重:37
危険度:85
特殊事項:危険能力『影』保有