社会問題小説・評論板

Re: いじめっ子といじめられっ子と傍観者と偽善者 ( No.15 )
日時: 2012/10/22 13:26
名前: はこりんご (ID: mJV9X4jr)

先生はおもいっきりドアを開けて、まず私のもとへきた。

そして、あらためて私を見て顔を歪めた。

「杉沢‥‥‥いつからだ?
 いつからいじめにあっていた?
 先生には言わなかったのか?
 誰かに助けを求めなかったのか?」

先生は私にそう言って、私を保健室へつれて行った。

雑に切られた髪の毛。少し焼けた制服。
誰が見てもひどいかっこをしている私を見て、
保健の先生も顔を歪めた。

でも、この人は私がいじめられていることを知っていたのだ。

見てみぬふりして、私をイケニエにして、
傍観者として今まで生きてきたのはこの人なのに。
今更いい人ぶる。偽善者。

「杉沢さん‥‥‥‥‥‥だ、大丈夫?」

おどおどとそう聞いてきた先生を私はおもいっきりにらんだ。

大丈夫なわけない。

誰も助けてはくれなかった。

「大丈夫!?ふざけないでくださいよ、
 先生。これを見て大丈夫だと思うのですか?
 先生こそ大丈夫ですか?今さら。
 あなたは私がいじめにあっているのを知っていたはずだ!
 先生が私を見て見ぬふりしたんでしょ?
 それなのに‥‥‥‥‥‥どいつもこいつも!
 ‥‥‥‥私のクラスの前の担任はどうした?
 あいつはどこに逃げた!」

止まらなくなった言葉で人を傷つけた。

どうしようもないことはわかっていた。
傍観者に何か言っても現状はかわらない。
そう言い聞かせてきたけれど、もう無理だった。

加奈のことで頭がいっぱいだった。
他のことはもうどうでもいい。と思うほど。

「先生は行方不明になったんだよ。
 君が学校を休んだ日から、何かしらないかい?」

今の担任がそう言うと私はえみがこぼれた。

あいつは逃げたんだ。私をおいて。
私をイケニエにして、自分だけ安全な場所へ。

私がちょっと本音を言っただけで逃げるなんて。
それこそ弱虫じゃないか。

なんで私ばっかりこんなめにあうのだろう。

栗香がわらうかわりに、
クラスメイトや先生たちの身の安全のために、
私だけ泣けっていうのだろうか?

理不尽。不公平。残酷。
いろんな言葉が頭の中で思い浮かんだ。

でも結局最後は、死にたい。という一言だった。

「あの弱虫逃げたんだ。
 もういやだよ。死にたいよ。
 だれか、ねぇ。私の存在している理由を教えてよ!
 私なんで生きてるの?
 みんなのために私だけこんな思いして!
 そんなことのために生まれたの?
 もういやだよ。ねぇ。」

少しずつ声は小さくなった。

声を出すのすら苦しかった。

すべてがいやで。

死にたい。
その言葉以外は考えられなかった。

「夢ちゃん。大丈夫?」

背後から聞こえた悪魔のささやきのような声は、
もちろん栗香の声。

栗香はにっこりわらい、私のおなかを思いっきりなぐった。

「あんたうざいの。
 あんたの存在している理由なんてあるわけないでしょ?
 っていうか早く死んで。‥‥‥‥‥‥‥‥‥メザワリ」

そう言うと先生の方をむいてまたにっこりわらった。

先生は顔を真っ赤にしていた。

今にも栗香に手を出しそうなほどおこっていた。

しかし、栗香はもう先生をおそれていなかった。
先生の弱点をつかんだから。

「先生。前の学校で何やったか、私知ってますよ♪
 言ってもいいんですか?
 PTAとかにバレたら‥‥‥‥‥‥‥‥‥大変でしょうね♪」

先生はかたまって動かなかった。
いや、動けなかったのだろう。

私は栗香に腕をひっぱられ、教室へ。

そこには加奈もいた。
無表情でいすに座っていた。

しかし、私を見ると満面のえみで私に近づき、
無言で私の顔をたたく。

ジンジンして、痛くて痛くて。

とても静かな教室に、栗香の笑い声が響いた。

「加奈、最高!顔たたくのいいね♪
 でもこっちでやった方がよくない?」

栗香の手には私の水筒。

加奈は私の顔を水筒で何回もたたいた。

私の顔は漫画でケンカをしたあとのような、
とてもひどい顔になっていた。

栗香は加奈にたたくのをやめさせて、
今度はケータイで私の顔を撮る。

するととりまきたちも、
じきにクラスメイト全員が私を撮る。

もちろん加奈も。

「みんな。
 この写真は、この学校の生徒にだけ見せてね♪
 あと、一週間以内に誰かにこの写真をメールで送らないと、
 わかってるよね‥‥‥‥‥?」

男子だろうと女子だろうと、
恐怖で人を思いどおりに操る悪魔。

その悪魔は私にさっきの写真を見せて、ゆっくり。
小さな声でこう言った。

「この写真。
 夢ちゃんのお母さんが見たら‥‥‥‥‥‥
 どんな顔するだろうね♪」

栗香はお父さんのことを知っている。

それを承知でこんなことをしているんだ。

今逆らったら栗香はためらいなどなくお母さんに写真を見せる。
そんなことをしたら__________

「今日の放課後。加奈と遊ぶんだけど、来るよね?」

冷たい声でそう言った栗香に、私はたてに首をふった。

栗香はにっこりわらい教室から出ていった。

その時の栗香の顔はとてもうれしそうな、無邪気なえみを見せ。
何も知らない人が見たら、
とてもかわいくてやさしそうな女の子だった。

私はその後ろ姿を見てつぶやいた。

「死にたい」

その声は確かに加奈に聞こえていたはずだった。

しかし、加奈は聞こえなかったことにして、
私の背中をけって、

じゃまだ。と言うような顔で私をにらんだ。

私は自分の席に座って、涙をこらえた。

そして、右手にできた、昔。死ぬためにつけた傷を見た。

あの時は失敗してリストカットになったけれど__________

今なら死ねる気がした。