社会問題小説・評論板

Re: いじめっ子といじめられっ子と傍観者と偽善者 ( No.25 )
日時: 2012/10/19 22:03
名前: はこりんご (ID: mJV9X4jr)

「夢。ちょっと話したいことがあるの。
 今ちょっといいかな?」

栗香がそう言うと私はふるえていた。
無意識だった。恐怖が止まらなかった。

「大丈夫。いじめはもう、しないよ。」

栗香は涙をこらえたような顔でわらっていた。



「まず。何から話すべきかな?」

栗香のその問いに私は言いたいことすべてをおさえて、無言で栗香を見つめた。

「じゃあ、まずはいじめをはじめた理由から、かな?」

栗香はひとり言のように、ゆっくりと話しだした。

「夢をいじめた理由は、昔の私に似ていたから。
 昔。私はいじめにあっていた。
 小学生の時、主犯は親友だった。
 悲しくて、辛くて、死にたかった。
 そんな時、そいつが言ったの、
 『お前みたいな性格の人間はいじめられるために生まれてきたの!』って。
 私は、その言葉を嫌った。しかし、私はその言葉を信じたの。
 なぜなのかはわからない、でも。
 もしかしたら、まだあの子を信じていたのかもしれない。
 だからあの子の言葉を信じたのかもしれない。
 そして私はあなたに会った。
 昔の私そっくりな私に‥‥‥‥運命だと思った。
 昔の私そっくりな性格だったあなたを私はいじめた。」

私は顔を真っ赤にして栗香の顔をたたいた。

自分でも、自分の行動に驚いた。

「ごめんなさい、でも、言い訳じゃないの。
 私たちは、いじめられる運命だったのよ!」

私の中でいろんな感情が同時におしよせた。

栗香の言葉が、いじめられっ子のように思えた。
栗香が、偽善者にも見えた。
栗香が誰なのかわからなくなった。

「運命って何よ!?
 私はそんな運命じゃなかった、こんな運命にしたのはあなたよ!
 あなたのしたことを、運命なんかのせいにしないで!」

私は思いっきり叫んだ。

栗香は泣いていた。しかし、
私にはその涙が、許せなかった。

「あなたが悪いのよ!」

栗香は涙をふいて、私を見た。
目がまっ赤になっていた。
これまでに見たことのない栗香だった。

栗香は話を続けた。

「いじめていると、だんだん。いじめが楽しくなったの。
 そして、親友だった子の気持ちがわかる気がした。
 いつのまにか私は、私がうけたいじめよりももっとひどいことをしていた。
 そして昨日。その親友だった子と話したの。
 『私もあなたの気持ちわかったの!友達に戻ろう!』っていうと、その子は
 『私も、私のしたことのひどさがやっとわかった。あなたがここまでするなんて』
 と言って、私の差し出した手を握らなかった。
 ショックだった。戻れると思っていたからこそ、ショックだった。
 その子が最後に言った言葉は、
 『自分が今やっていること、私よりもひどいよ。わかってる?』
 上から目線で冷静にそう言うと、
 光達沙奈は、いつも通りの関係に戻ったの。
 ただのクラスメイトに」

光達沙奈__________偽善者。
まさか本物の偽善者だったとは思ってもいなかった。

裏の顔なんて知らなかった。

私は栗香に最後の質問をした。

「いじめをした理由も、やめた理由も。
 __________光達沙奈?」

栗香はうなずいた。

私は怒りを必死にこらえた。

そして、何も言わずに教室へ戻った。

光達沙奈と話すつもりはない。

もう、これ以上苦しみたくない。

真実は苦しみをうむだけだ。それなら、真実などどうでもいい。
光達沙奈が、栗香をいじめた理由も、何もかも。どうでもいい。

「夢。ねぇ。」

突然加奈が話しかけてきた。

「昔みたいにとはいわない‥‥‥‥
 ねぇ。私たち、1からやり直そう!
 私も夢をいじめないと私をいじめるって栗香におどされたの、
 だから!お願い。1からやり直そう。」

絶望。怒り。悲しみ。憎しみ。そんなものでは例えきれない思い。

加奈へ言いたいことはただ一言だった。

「無理」

私の言葉に再び静まり返る教室。

鳥の声がかすかに聞こえた。

加奈の目には涙があふれていた。

しかし、これが私の本音だ。

嘘はもうつかない。すべてに正直になろう。
そしたら、いつか____________________復讐の時が来るから。