社会問題小説・評論板

Re: いじめっ子といじめられっ子と傍観者と偽善者 ( No.33 )
日時: 2012/10/22 15:00
名前: はこりんご (ID: mJV9X4jr)

放課後の体育館うらは少し寒かった。

日のあたらないこの場所は、
私にとって好きな場所とは言えなかった。

「お待たせ。」

そう言いながら、
ゆっくり歩いてきた沙奈に私は言った。

「何の用?」

沙奈は急に悲しそうな顔をした。

私はビックリして声が出なかった。

「ごめんなさい。
 栗香があなたをいじめていたのは私のせいなの。」

沙奈の言っていることの意味はわかっていた。
栗香から聞いていた。

私は少し怒った声で聞いた。

「ねぇ。あなた、まだいじめをつづけるつもり?
 それとも、いじめはもう一生しない?」

私の問いに沙奈は少しとまどいながら答えた。

「もう、絶対にいじめなんてしない」

私はその言葉を聞いてほほえんだ。

「そっか、それなら、私。
 あなたには復讐しないことにする」

沙奈は真っ青な顔で言った。

「栗香に、復讐するの?」

私はうなずいた。

沙奈はいきなり泣き出した。

「お願い。話を聞いて。
 私の、話を」

私はハンカチを差し出し、沙奈に言った。

「いいよ、聞かせて、話を」

沙奈はうなずいて、私のハンカチで涙をふいた。

「あれは、去年、小6の頃。
 私は栗香をいじめていたの。
 親友だった栗香を」

沙奈はそう言って、私の反応を待っていたが、
私は真っすぐ沙奈の目を見るだけだった。

沙奈は、またはなしだした。

「毎日、毎日。栗香にひどいことをした。
 私、その頃はいじめが悪いことだと思ってなかったの。
 自分でも、あの頃の私はおかしかったと思う。」

沙奈はまた涙を流したが、必死にこらえようとしていた。

私は、ゆっくり沙奈に聞いた。

「‥‥‥後悔してる?」

私の言葉に、沙奈はうなずいた。

とても悲しそうな顔だった。
本当だと言うことがすぐにわかった。

「私、中学に入っても栗香をいじめるつもりだった。
 でも、その前に栗香はあなたをいじめたの。
 きっと、私からいじめられて、おかしくなったのよ。
 全部、私のせいなの」

私は不思議な感情だった。

なぜか涙が出てきそうになった。

しかし、私はこらえて、話を聞いた。

「栗香がいじめをしているのを見て、
 自分のやっていたことのひどさがわかった。
 だから、栗香を止めようと思ったけど、無理だった。
 私は、栗香を見て、『この子はくるってる』と思ったの。
 おかしいよね、私のせいなのにそんなこと思うなんて。」

沙奈は下を向いたまま顔を上げなかった。

私は、どうすればいいかわからなかった。

「それで、この前栗香とはなしたの。
 そしたら栗香は
 『私もあなたの気持ちわかったの!友達に戻ろう!』
 と言ったの。悲しかった。
 自分のせいだ、と思うと息をすることすら苦しかった。」

訴えるように強く、
しかしか弱い沙奈の声。

下を向いたままふるえている。

涙が落ちていくのが見えた。

「私は栗香に最後にこう言ったの。
 『自分が今やっていること、私よりもひどいよ。わかってる?』
 そして今日、栗香はいじめをやめた。」

沙奈ははなし終えるとハンカチを私に返してまた泣いた。

私はきまずい空間で沙奈をただ見ていた。

しかし、私の気持ちはかわらない。
栗香たちが私をいじめたのは事実だ。
それなら、栗香たちはさばかれるべきだ。

私は復讐する。

誰が止めても。

あいつらがあやまっても。

私は復讐する。