社会問題小説・評論板
- Re: そこに居たのは、 ( No.3 )
- 日時: 2014/02/15 21:43
- 名前: 杏香 ◆A0T.QzpsRU (ID: HmBv7EUE)
第一章「正反対」
このクラスには、私を含めて36人の生徒が居る。
当たり前の事だけれど、その1人1人が違う顔と性格を持っていて。私みたいに地味で目立たない子から、反対に明るくて活発的な子まで、実に多種多様の"個性"があった。
その中でも一際輝く紗希ちゃんは、私とは違い明るくて人気者。彼女は私にとって、ずっと憧れの存在だった。
……紗希ちゃんと私は、本当に正反対で。だから私が憧れたのも、もしかしたら必然だったのかもしれない。
「ねえ紗希! 佐々木先輩に告られたって本当なの!?」
——まだ来ている人が少なく、静かな朝の教室に響き渡る元気な声。それと同時に、閉ざされていた教室の扉が勢いよく開け放たれる。
さっきの声は、紗希ちゃんと仲が良い清水さんの声だった。白いマフラーを巻いていた清水さんは、扉を開けると直ぐに紗希ちゃんの席へと向かった。
すると紗希ちゃんが席を立ち、「こっちで話そう」と教室の隅っこを指差す。恐らく、周りに配慮しての事なのだろう。
その指示に清水さんは、黙って頷く。
そして2人が移動している間にも、待ちきれないという感じで清水さんが言った。
「ねえ、本当なの!? 佐々木先輩に告られたって!」
紗希ちゃんはそれに対して、短く「本当だよ」とだけ答える。
2人がそんなやり取りをしている間に、2人はとっくに教室の隅っこにたどり着いていた。けれども声が大きいのか教室が静かすぎるのか、その話は席が一番前の私にも聞こえてきた。
「えーマジで!? それで付き合ったの!?」
「付き合ってない。振ったよ」
新しいおもちゃを与えられた子供のように、清水さんはワクワクした様子だ。後ろを振り返らなくても、その事が声から分かる。
それに対して、紗希ちゃんは相変わらずバッサリとした受け答えだ。
「佐々木先輩格好良いしモテるじゃん! もったいないなぁ……!」
紗希ちゃんの口から真実を聞いて、何とも羨ましそうに清水さんが言う。そういえば、清水さんって噂話、特に恋愛関係の話が大好きだっけ……。
「確かにそうだけどさ、私はタイプじゃないんだよねー」
「もう、本当に紗希ってばモテモテなんだから! 羨ましいよ!」
本音を言うと、私も紗希ちゃんが羨ましかった。だって佐々木先輩は本当に格好良い人だし、それに何より私は告白された事がない。
ラブレターでも何でも良いから、私も紗希ちゃんみたいに告白されてみたかった。
——でも、私にはきっと無理だろうな。だって私は紗希ちゃんみたいに可愛くないし、明るくもない。
地味でブスな私が、モテるはずないよね……。私はそう自分に言い聞かせ、いつもの様に本を開いた。