社会問題小説・評論板

Re: そこに居たのは、 ( No.4 )
日時: 2014/02/09 20:35
名前: 杏香 ◆A0T.QzpsRU (ID: HmBv7EUE)

 私が本に夢中になっていると、突然声をかけられた。
「今日も早いね」
 私は本を開いたまま、慌てて声がした方を見る。するとそこには、笑顔で挨拶をする凛ちゃんの姿があった。
「おはよー、詩織! もしかして邪魔しちゃったかな?」
 凛ちゃんは、私の唯一の親友だ。
 しかも凛ちゃんは、いつも笑顔で誰にでも優しい。仲良くなったきっかけも、2年生になったばかりの頃、1人ぼっちだった私に話しかけてくれた事だった。

 そんな凛ちゃんに、私も笑顔でこう返す。
「おはよう、凛ちゃん。全然邪魔してないよー!」
「そっか、それなら良かった。そういえば今日、1時間目から体育だねー……憂鬱だな」
 凛ちゃんはわざとらしく腕を組み、物思いに耽るように溜息をついた。
「そうだね……私も嫌だよ」
 体育がある日は、いつも気持ちが沈む。本当なら何か理由をつけて、体育がある日は全て休みたかった。
 そう思ってしまうのは全て、私が極度の運動音痴なせいである。

「まぁ、頑張るしかないよね……仕方ないよ」
 そう言いながら凛ちゃんは、またもや大きな溜息をつく。
 凛ちゃんは運動が苦手だと話していたが、全然そんな事はないと思う。実際に体育の実技テストでは、いつも凛ちゃんの番になると自然と拍手が沸き起こる。
 逆に私の番になると、拍手どころか様々な人から冷たい視線を送られる。誰も笑ってすらくれないのが余計に虚しく、体育の授業は私にとってとても苦痛な時間となっていた。
「……休みたいなぁ」
 私はボソっと呟きながら、開いたままの本にしおりを挟んで閉じる。俯いたままの姿勢でいると、いきなり担任の先生が入ってきた。
「ほらほら、もう朝読書の時間だよ! 皆早く座りなさい!」

 担任の先生は30代の女性で、少し口うるさい。その上に、怒らせるととてつもなく怖いのだ。
 好きで先生に怒られたい人なんて、きっとこのクラスには居ないのだろう。だから先生の言葉は、まるで魔法の呪文だった。
 皆が魔法をかけられたかのように、一斉に席へ着き始めている。凛ちゃんも「じゃあ詩織、また後でね!」と言って自分の席に着いてしまった。
 ああ、また学校での一日が始まってしまうのか……。私は大きく溜息をつきたい気持ちをこらえ、挟んでいたしおりを抜いてまた本を開く。