社会問題小説・評論板
- Re: そこに居たのは、 ( No.6 )
- 日時: 2014/02/09 21:10
- 名前: 杏香 ◆A0T.QzpsRU (ID: HmBv7EUE)
今日も、その至福の時間はすぐに終わってしまった。
私達が体育館に入ると、いつも凛ちゃんだけが呼ばれて他の友達の所に行ってしまう。しかもその友達というのは、私が苦手なタイプの人達なのだ。現に運動音痴な私の姿を、いつも影でバカにして笑っている。
だからその人達と凛ちゃんが仲良くしているのを見ると、少し胸が痛くなる。私も運動音痴でなかったらあの楽しそうな輪に加われたのだと思うと、何だか無性に悲しくなった。
私は凛ちゃんと一緒に居ない間、1人ぼっちにはなりたくなかった。1人になれば余計、悲しくなってしまうから。
だから私も別の友達の所へ行き、談笑した。これもいつもの事だ。
私には友達が1人も居ない、という事はない。少ないながらも、ちゃんとした友達が居る。
話の内容は、大抵が体育の悪口だった。私達は運動音痴仲間で、お互いに傷を舐め合っている。今だってそう。
「体育はいらないと思う人ー!」
グループの1人がそんな事を言えば、全員が一斉に手を挙げる。そして皆、顔を見合わせて笑うのだ。
でも、そんな楽しい時間ももうすぐ終わる。
楽しい時間というのは、いつもあっという間に過ぎてしまう。なのに辛かったり苦しい時間は、とてつもなく長いのだ。
そんな事を考えた瞬間、授業開始のチャイムが鳴って体育の先生が入ってきた。
「もう授業始まるぞー! 早く並べ」
体育の先生はそう呼びかけながら、体育館の中心まで歩いていく。その事に気づいた私達は、「じゃあまた後で!」というような事を口々に言った。
そして、遅れないように急いで整列する。他の人達も、おしゃべりを止めて並び始めていた。
——授業の始めの挨拶はすぐに終わり、適当な準備体操も終わった。
「今日はバスケットだ。男子が反対側で跳び箱をやっているから、当たらないように注意しろよ。それから……」
今は、先生が今日の授業の内容を説明している。私はその間ずっと、朝以上に気分が沈んでいた。もちろん、今も。
体育の度に思い出すのは、私をバカにして笑うあの声。思い出したくないのに、思い出してしまう。
気にしなければいいだけだと、自分でも分かってはいる。それでもやっぱり、私の気持ちは沈むばかりだった。
「じゃあ5分間シュート練習の時間を設けるから、頑張って練習するんだぞ」
体育の先生の声が、どこか遠く聞こえた。