社会問題小説・評論板
- Re: あなたとわたしの世界観【参照200突破記念座談会】 ( No.23 )
- 日時: 2013/03/02 15:32
- 名前: 藍永智子 ◆uv1Jg5Qw7Q (ID: HtzPaCR.)
まだ体は寝ているというのに騒げるなんて、凄いわよね。私と同室の女の子達は腫れぼったい寝ぼけ眼でいることなんて全く気にしていなかったらしく、時間にそぐわない高すぎるテンションではしゃぎまくっていたわ。
幸い——と言ってはいけないのかもしれないけれど——その頃の私は、その場の空気に合わせてテンションを上げる術を身につけていたから、さして困りはしなかった。
この修学旅行は一泊二日という短いものだったから、「今日の夕方には自分の家に帰っている」だなんて当たり前のことに興奮していた私達には、不思議と高揚感が漲っていた、ということも一因だったのかもしれないけれどね。
旅館の方々が張り切って作ってくれた朝食の数々は、目覚めていない胃には少しきつかったみたいで、私は食べている途中で音を上げてしまった。それでも——僅かではあったけれど——何人かは食べ終えることができたらしいから、旅館の方にだって多少は感謝の気持ちを伝えることができたと思うわ。
急いで荷物をまとめてから、形だけの「お礼を伝える式」を行い、それからようやく旅館を後することができた。
バスの指定座席に腰を下ろした瞬間に恵利ちゃんが、いつもの気怠そうな口調なんて微塵も感じさせないような声音で、話しかけてきた。
「ねえねえ、しーはさぁ、次行くとこで何すんの?」
当然、私だって身につけた術を使って、相手と同じような高いテンションで切りかえす。
因みに「しー」というのは、親しい間柄だけで使っていた私の呼称よ。
まったく、何故「親友」でいることに耐えられたのでしょうねえ。
——友情というモノが崩れ去る音なら、もう既に聞こえていたっておかしくはなかったというのに。
それ程までに、私の聴覚は鈍っていた、ということなのかしら。
これまで「テンションが高い二人組」を演じてきたせいなのかしら。
『過ぎ去った時なんて、どれだけ努力しようと取り戻すことは出来ない』?
——そう。こんなこと、今更思い返したってどうにもならないのにね。
皆様、独りを恐れ続けている限りはご自分の顔に愛想の良さそうな笑顔を貼り付けることを忘れずに。
「私? わたしは織物をするよ。恵利は何にしたの?」
「んーとねぇ……忘れた!!」
「おいっ!! もう着いちゃうよ!? 今のうちに確認しておきましょっ」
「ほいほい」
この後の研修場所でも特に喧嘩らしい何かをした訳ではない。——はず。
帰りのバスの中でも特に諍いを起こした覚えはない。——はず。
学校に着いてからはすぐに解散したから特に会話はしなかった。——それなのに。
土曜日、日曜日と空けて——月曜日。
私と恵利ちゃんの間にあった筈の「友情」は——彼女から私への憎しみ、という置き土産を残して——すっかり消え去ってしまったあとで、元通りにすることなんて到底思いもよらなかった。