社会問題小説・評論板
- Re: あなたとわたしの世界観【第八話、更新】 ( No.28 )
- 日時: 2013/03/10 18:03
- 名前: 藍永智子 ◆uv1Jg5Qw7Q (ID: iKDICmMs)
それが起こったのは今から約二年前のことだった。——だから、少しくらい記憶は薄れていたって全然可笑しくはないのに、それなのに。
私の記憶のなかでは、今もまだ、彼女と共に演じ続けた日々が、たとえ見せかけに過ぎなかったのだとしても、それでも輝いていた時が、色鮮やかに残っていて、一部に至ってはしぶとくも呼吸を続けている。
変、よね。
「友情なんて」——この台詞を数えきれないくらい呟いてきた私なのに、今に至っても、何処かでは「それは偽りだけで出来ていたのではなかった」って信じ続けているの。
一体どこまでご都合主義者なんだ、って話。自分でも馬鹿みたいに思える。
それでも、栄光に溺れる事が大好きな私でも、偽りの姿に憧れていたかったの。
たとえそれが偽物だってわかっていても、その瞬間さえ幸せであるならば、それで良いと思えるの。
——畜生、人であり続けることがこんなにも苦しかったなんて。
言葉遣いが多少乱れていても勘弁して頂戴。
だって、こんな分かり切ったことに今まで気付けなかった自分が許せなくて、とても腹立たしくて。
何故、あの時の私は月曜日、恵利ちゃんに話しかけに行かなかったのかしら。
きっと、私がつまらない意地なんて張らないで、もっともっと素直になっていれば、私は「今」だって彼女と馬鹿話をして、清々しいくらいの大声で笑って、誰とだって笑顔で会話ができていたのだろうに。
クラスメイトの子から話しかけられたときに「本が友達」って厭きるくらい答えて、苦々しい思いを噛み締める瞬間の味だって知らないですんだのに。
そして何よりも、この期に及んでまでも「自分優先」の考え方をとってしまうような自分の汚さを知ることだってなかった筈なのに。
ある人は、これを運命だと形容する。
またある人は、これを必然だと形容する。
では、私なら——いいえ別に、何とも表さないわ。
私は「これ」を正確に表す言葉をまだ知らない。
きっとその言葉を知ることになるのは、ずっと先なんだと思う。
数年後か、数十年後か。それとも、十数年後か、百年後か。
はたまた、見つけられないままに私が「吉野志保」でいる時を終えてしまうのか。
そんなこと、今を生きる私には分かる筈のないことだけれどね。——でも。
それでも、答えが欲しくてたまらないの。誰かに「正解はこうだよ」と教えてもらいたいの。
人に頼ることは、自らの思考を無理やり停止させてしまうこととイコールで結ばれると思う。
だから、私は誰にも頼ろうとはしないでいよう。——いいえ、そこまではいかないわね。
私は、誰にも答えを求めずにいよう。どれだけの時間がかかろうとも、自分ひとりで探し求めるものを見つけられる時が来るのを待とう。
たとえそれが、何の問題とも直面していない今だからこそいえる事なのだとしても、虚像に溺れることになるのだとしても、「呼吸を止めてしまう」よりはなんだってマシだと思えるから。
ねえ、恵利ちゃん。
あれからもう二年が経ちます。あなたは、もう私と過ごした日々のことを忘れてしまったかしら。
あの、共に過ごした輝かしい記憶を、あなたは捨てる事を選んでしまったでしょうか。
私は、あなたと初めて会った日のことから——「親友」として会話できた最後の言葉まで覚えているのよ。
あーあ、折角なら試験に出る公式の暗記とかに発揮したかったわ。
こんなにも未練がましく、ずるずると記憶を引きずっている私は滑稽かしら。
でもね、やっと少しだけ正直になれたの。
つまるところ、私はとにかく貴女が大好きだったんだ、ってね。