社会問題小説・評論板
- Re: あなたとわたしの世界観【参照300突破感謝】 ( No.29 )
- 日時: 2013/03/10 18:57
- 名前: 藍永智子 ◆uv1Jg5Qw7Q (ID: iKDICmMs)
ああ、自分の記憶を客観的な視点から淡々と語るだけ、っていうのが当初の予定だったのだけれど、いつのまにこんな告白をすることになったのかしら。
まあとにかく、修学旅行についての一切の話はこれで終わりよ。
琴音ちゃんに関する内容は少なかったけれど、「小学校時代」の修学旅行では特にそこまで何か深いかかわりがあった訳でもないから仕方ないの。
それに、丁度小学校高学年の頃は、友情が低迷期に入りかかっていたときでもあったし——なんにしろ、私と琴音ちゃんの間には大した歪みも何にもなかった。
まあ、それはあくまでも小学校の話なのであって、中学校ではまた別よ?
中学では同じクラスになったし、「親友」っぽくもなったし、修学旅行でも同じ班になったし、同じ部屋に泊まったし、とにかく、彼女と共有しているであろうはずの記憶なら沢山あるわ。
ただ、不思議なことに——恵利ちゃんとの思い出程、鮮明に、事細かく覚えてはいないのよね。
何故なのかしら。
彼女と共に過ごした時間はかけがえのない、大切なモノだと思っていたのに。恵利ちゃんとの、あの数年間にも負けないくらい楽しかった筈なのに。
——私は彼女のことを、親友だと思っていた筈なのに。
琴音ちゃんは、私が小学校に入学する年に他の町から引っ越してきたの。
彼女の新しい家が私の家から右に二軒ている、とても近い所だったということもあってか——実のところをいうと、私達の姉同士が仲良くなったことこそが一番の理由なのだろうが——私と琴音ちゃんは、小学校に入学する前から「お友達」になっていた。
「お友達」の関係は時間が経つと共に深く、強くなっていき、気が付くと私と彼女は晴れて「親友」と呼ぶべき関係を築きあげていたわ。
そう。彼女は私のことを親友だと信じて疑わなかった。
もっとも、私だって彼女を「親友」だと思っていたから、何の問題も生じなかったのだけれどね。
——でも、いつしか私は親友であった筈の彼女の存在を、疎ましく感じるようになっていたの。
私はもともと飽きやすい質だったし、事実、その傍迷惑な性格のせいで今まで何度か琴音ちゃんと距離を置いてきた時期もあった。
今までは、そう思っていたわ。「私は飽きやすいタチなんだ」って。
でも、その考えが変わり始めたのは最近。
両親とかに言われて気付いたのだけれど、私は結構な読書家だ。
勿論本を読む、ということは良いものだし、「より豊かな感受性を育てることもできる」。それになにより、活字に溺れている時間はとても輝いているように感じられて、人と関わることが苦手な私は本に溺れていくことで、その埋め合わせをしていたの。
その反面、悪いことだってあったわよ。例えば視力の低下、とか。
両目ともAだった私は、本に溺れていった数年の内に両目Dという判定を受けるまでになったわ。
それでも、本を読み続けていてよかった、と思ったのはつい先日。
某サスペンス作家の本を読んでいた時に、とある一文が妙に目に付いたの。
——『私は人と親しくなれば親しくなるほど、その人の存在を疎ましく感じるようになっていく』。
思わず「どうして」って呟いてしまった。
だって、それを読んだ瞬間に分かったんだもの。「ああ、私のはコレだったんだ」って。
その一文は周りの文と全く同じ色で、同じ太さで、同じ濃さで、さして強調されていたわけでもなかった——それでも、私の目にはその一部分にだけスポットライトが浴びせられているかのように視えたわ。
私、その瞬間にとても安心したの。
別に飽きっぽいタチだった、という訳じゃあなかったんだ、ってね。
まあ多少はそういう部分もあるのでしょうけど、それでも、少しは否定してくれた訳で。
何故だかとても慰められたような気がして。
その作家の方は、別に私の事なんかを知っている訳じゃないでしょう。だから——だから、私以外にもそう感じる人は居るんだな、と言ってもらえたことが嬉しくて。
お前だけじゃない、って言われた気がして。
長くなってしまったわね。
言いたかったのは、この一文。
私は誰かと長くいれば居るほど、その人の存在を疎ましく感じてしまうのだけれど——でも、嫌いなのではない。
傍目から見ればとんでもない理屈よね。
それでも、私の感じていることを文に表すとこうなってしまうの。
ねえ、琴音ちゃん。
私はあなたが嫌いになった訳では無いの。
もう一度もとの関係になろう、なんて言う気はないけど、これだけは知っていてほしかった。
あなたは、私に嫌われたのだと信じて疑っていないようだったけれど。
それでも誤解されたままでいたくないと願う私は、欲張りなのかしら。