社会問題小説・評論板

Re: 学級崩壊 ( No.3 )
日時: 2014/11/24 18:02
名前: 藍里四季 ◆dcuKuYSfmk (ID: IfRkr8gZ)

二話 教師

「佐々木、綾乃さん?」
書類と私の顔を交互に見る、トトロのような体型をした校長先生。
「初めまして——いや、お久しぶりと言ったほうが良いでしょうか。校長先生」
「……あの時は、すまない。君を助けられなくて」
「気にしてませんよ。……もう、過ぎたことですから」
笑顔も浮かべずに、冷めた目で校長先生を見つめる。
本当は、今も夢に見る。
何度も何度も、夢に見る。
昨日は、ろくに眠れていない。

「担任の先生だけど、新任の先生だから。名前は——宮本敦(ミヤモトアツシ)先生。君は、五年一組だ」
——宮本敦。
許さない——否、許してはいけないと決めた、男の名前。
双子の妹を殺した、男の名前。
「……宮本、先生ですね」
私は、口角を上げて微笑んだ。
「教室に行きます。……失礼します」
校長室を出た。

人気のない、廊下を歩く。
「佐々木、綾乃さん?」
振り向くと、赤いジャージを着て、黒縁の眼鏡をかけた中年教師が居た。
こんなのが教師なんて——認めない。
「宮本先生ですね」
初めまして、といい、微笑んだ。
「初めまして。教室行こうか」
「……はい」
彼の後に続き、廊下を歩く。
「5-1」というプレートがかかった教室に、彼は入る。
軽く自己紹介を済ませると、私を呼ぶ。
教室の中に入ると、いくつもの視線が私をとらえる。
見知った顔が何人かあるが、きっと彼らは誰一人、私のことを覚えていないのだろう。
荒川蓮——あの男を除いては。

「お久しぶり、佐々木綾乃です。よろしく」
ぺこりと頭を下げ、窓際の一番後ろの席に座った。
「綾乃」
「……げ、荒川」
隣の席は、荒川だった。
「面白くなりそうだな、綾乃」
彼の笑顔が、歪んで見えた。
「気安く呼ぶな」
私は彼の顔も見ずに、窓の外を見る。
私の心とは反対に、綺麗な青空が広がっていた。
綺麗な青空を両断するように、飛行機雲が走っていた。