社会問題小説・評論板
- Re: いじめ〜負けないココロ〜オリキャラ募集 ( No.71 )
- 日時: 2016/09/16 21:14
- 名前: ダイアナ ◆nPa74zK8QY (ID: 5SQt.OF5)
笠原千波
「あっちょっと待って!」
彼女が教室を飛び出したのを見て、私はがたんと椅子を引いて立ち上がった。壁に飾られた時計をちらりと一瞥する。授業がもうすぐ始まるのも余所に、私は教室を飛び出した。
彼女の脚が速いのか、それとも私が遅いのか、どこを探しても彼女の姿はなかった。心臓が激しく音を立て、足が重くなる。私は一旦息を整えようと、壁に手をついて立ち止まった。
刹那、壁の向こうから聞き慣れた声がした。
「先生の手伝いとかマジだりぃんだけど。なぁ、海音寺」
私は耳を壁に近づけた。それは思いのほかひやりと冷たく、私の頬を刺激した。なかからは、話し声以外にも、プリントの薄っぺらい音やホッチキスの音も混じって聞こえてくる。
「それな。めんどくさい」
この声は、おそらく萌黄ちゃんと氏原君だろう。中に先生はいないようだ。
「っていうかさ、笠原の事どう思う?」
いきなり話の引き合いに出され、私の心臓がドクンと大きく脈打った。萌黄ちゃんの回答が少し気になるような、でも怖いような気がした。プリントが置かれる音がした後、萌黄ちゃんは吐き捨てるように言った。
「アイツ、めっちゃウザい。私の気持ちも知らないくせに偉そうに──」
あまりにも素直すぎる悪意に、心にぶすっと針が刺さる。〝ウザい〟と言われた事はショックだが、むしろ私は最後の『私の気持ちも知らないくせに偉そうに』という台詞が引っ掛かった。成績も良く、運動神経も良く、クラスの立場的にもなんら不自由のないように見える萌黄ちゃんには、なんだか不自然な気がした。
「ここにいたらまずいよね……『あの子』探さなきゃ」
立ち上がろうとした瞬間、不注意で近くにあった棚に足をぶつけてしまった。ガン、という大きな音が遠慮なく空気を揺らす。私は思わず両手で口を覆った。
「うるせー!誰だよ外にいんの!」
氏原君の怒鳴り声が聞こえる。私は慌てて棚を元の位置に戻し、二人がドアを開ける前に、と近くにあった階段を駆け上がった。
鉄製の手すりを掴み、二段飛ばしで上の階へと逃げる。しばらくすると、二人の声が聞こえた。
「あれ?誰もいなくね?」
「誰がいたとかどうでもいいし。っていうかプリント纏めるの終わったんだし、早く教室帰ろ」
二人の声や足音が次第に小さくなっていったのを確認して、私は胸を撫で下ろした。刹那、ふと視界に違和感をおぼえて立ち止まった。誰か階段にいるようだ。私は更に上へと上がった。
「あっ!ここにいたんだ!」
しばらく上がった階段の近くに、彼女はいた。その瞳が悲しげに揺れているのを見て、私はそっとしておいた方がよかったかな、と少し後悔した。だがここで帰るわけにもいかないだろう。
「大丈夫?」
二人だと悲しみは半分、喜びは二倍。なんとか彼女の力になりたくて、私はそっと声をかけた。