社会問題小説・評論板

肌寒い秋の日の出来事_。 ( No.25 )
日時: 2017/10/15 22:51
名前: 雪姫 ◆kmgumM9Zro (ID: sqo3oGwV)

夏が終わりました




夏の間中頑張った蝉さんたちはこときれました




少し肌寒い秋の日




トントン。



階段を上がっていきます




トントン。



静かに一歩一歩ゆっくりと階段を上がっています



トント



目的地に到着しました。目の前は立入禁止と書かれた黄色いテープでとおせんぼ




ここは危ないからと封鎖された場所




でもそんなのわたしには関係のない話です




ビリビリとテープを引きちぎって




キィ





ドアを開けて中へ入いります




ビュゥゥゥウウ




冷たい風までがわたしを突き刺すようです




寒い 凍えそうなくらい 寒い



くちゃり ぐちゃり くちゃり




足元に 無数に 落ちている 蝉の死骸を踏みつけながら 前へ進みます




目指すは壊れて 歪んで 大きく開いた




ここと 向こう側を隔てる フェンス




一歩前へ足を踏み出すだけで もうその先はありません




上を見上げれば 雲一つない青い世界




下を見下げれば 部活動中かな?




運動部員たちがグラウンドで走り回っている 茶色い世界




ポタ…。ポタ…。





晴天の空




わたしの心はどんより曇り空




ポタ…。ポタ…。




雨がわたしの頬を濡らしています





フェンスの内側の世界からはチェシャ猫とハートの女王様の笑い声が聞こえて来るようです





もう一歩前へ足を踏み出せば





誰かが わたしの体をぽんっと押せば





ふわりと浮き上がった体は そのまま——




真下にあるアスファルトに向かって真っ直ぐに落っこちて行きます





このまま落ちれば即死は確定。あぁ……やっとこの不自由な世界から解放される




大粒の雨を降らしながらわたしは嘘しかうつさなかった瞳を閉じようと——





「ねぇーそんなところでなにをやっているのー??」したのに。全てを終わらせようとしたのに。下の教室から星マークが入ったキラキラとした瞳を輝かせるオレンジ色のツインテールの女の子が窓から上半身を覗かせて上を見上げ、大きな瞳でしっかりわたしを捉えて話しかけています——危ないぶつかるっと思った時はもう手遅れでした。

肌寒い秋の日の出来事_ ( No.26 )
日時: 2017/10/16 09:36
名前: 雪姫 ◆kmgumM9Zro (ID: O62Gt2t7)

——ごつん。頭の中で響く鈍い音。わたしと彼女のおでこがぶつかった音。わたしと彼女の鼻がぶつかった音。屋上から真っ直ぐに、一直線に落下していたわたしの体は彼女とぶつかった衝撃で大きく速度と進行が変わりふわりと打ち上げられて「あぶねぇ!!」大きな男の子の声、そして長い腕に捕まれ教室の中へと引きづり込まれました。ぶつかった彼女も一緒に。
引きづり込まれた教室には、わたしを引っ張ったぶっきらぼうな顔をした男の子と、ぶつかった女の子の二人だけで他のみんなはいないみたいでした。もう放課後だからみんな帰って行ったか、部活動中なのかな。

「何してんだっ危ないだろが!!」

頭の上から聞こえる怒号。上を見上げれば男の子が血走った目で怒っています。なんであなたが怒っているんですか……怒りたいのは……。

「アホ子が身を乗り出してぶつかってなかったら、お前そのまま……聞いているのかっ」

偉そうに説教なんてしないでよ……なにも知らないくせに。どうしてわたしが飛び降りたのかなにも知らないくせに……偉そうに説教なんてしないでよ……わたしは…わたしは……。

「死なせてよっ!!」

「「ッ!!」」

初めてだった。誰かに自分の意思を伝えたのは。

「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!!!」

こんなに大きな声で泣いたのは初めでのことでした。
男の子は困った表情でわたしを見つめ、女の子に助けを求めるような視線を送っています。女の子はうんうんと頷いて「つらかったんだね…」となぜか一緒に泣いて強く強めに抱きしめてくれました。……誰もわたしのことなんて見えていなかったのに。無視して笑い蔑んだ瞳で見たのに、彼女はわたしを……見てくれました。普通の女の子として……見てくれました。

「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!!!」

しばらく泣き続けました。涙が枯れるまで泣き続けました。胸の奥底にしまっていた感情、押さえていた感情を全て吐き出しました。まるで小さな子供のように。泣き叫びました。

「落ち着いた?」

こくんと頷きます。「何があったの」と聞かれわたしは全てを答えました。今まであったこと、今までされた仕打ちを全て話しました。彼女達は真剣に、目をそらさずにわたしの話を聞いてくれました。愉快な表情付きで。

「マジか!? 分かった、ワタチがこらしめてあげるねっ」

「なにをする気だ……アホ」

呆れ顔で見つめる男の子と一緒に、燃える女の子を見つめます。こらしめるってなにをする気なの? あまり下手なことはしてほしくないです。状況が悪化するだけだから。でも彼女は止まらない、走り出してしまった彼女を止める手段はどこにもありません。「うおおおおおお」と叫びながら走り出す彼女を視線で追いかけていると窓の向こう、校舎を出てグランドを走っていたハートの女王様にせまり

「な、なによ貴方っきゃあああっ!!」

近くにいたスペードとジャックのトランプ兵もろとも口の中に無理やり皮を半分むいたバナナをうぬを言うすきも与えずに突っ込み入れました。「おごごご……」いきなりバナナを突っ込まれたショックと、呼吸器を塞がれて息が出来なくなってハートの女王様とスペードとジャックのトランプ兵はその場に座り込みました。

「何しているんだあのアホは……」

隣で失笑している男の子。呆れたような声で言っている彼のなんだかスカッとした爽快な笑顔に見とれていたら「おまえ、鼻血垂れてるぞ」とティッシュを一枚差し出してくれました。さっきぶつかったせいかな、恥ずかしいな……彼から受け取ったティッシュで鼻を拭きながら、もう一度窓の外を見てみました。

グランドでは見事におしおきされたハートの女王様たち、下を見れば地面のアスファルトに飛び散った、わたしと彼女の鼻から流れ落ちた赤い血が数滴飛び散っていました。

どこかでなにかあったのかな。すぐ近くから聞こえる救急車のサイレンの音を聞いていると


辛い現実から逃げ出すためにわたしが生み出したもう一人の"わたし"


<アリス>が死んだのかな、とただ純粋にそう思った





                               肌寒い秋の日の出来事_。fin