社会問題小説・評論板
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- 担任は偽善者
- 日時: 2012/01/29 16:14
- 名前: よろし (ID: nWEjYf1F)
一年前、わたしは中学二年生で、二年一組に所属していました。
二年一組には、いじめがありました。
ちょっと顔が不細工な女の子のことを、みんなで無視したりする程度のいじめです。
叩いたり蹴ったり水をかけたり……なんて、そんな漫画みたいなことは誰もしませんでした。
ただ、無視するだけ。
ただ、悪口を言うだけ。
ただ、仲間に入れないだけ。
わたしたち二年一組のクラスメートは、その子のおかげでストレス解消ができました。
だから、その子以外のクラスメートは、男女へだたりなく仲がよかったのです。
でも、一人だけは違いました。まぁ、厳密にいえば、クラスメートではないのですが……それは、担任です。
担任は、熱血な男でした。いえ、正確に言うと「熱血気取り」です。
某・熱血教師ドラマに影響されたか否かは知りませんが、とにかく面倒くさく、うざったらしい先生でした。
彼は、なにがあってもいじめられっ子を庇いました。
たとえその子が人のものを盗んでも。たとえその子が授業中寝ていても。休み時間に鼻くそを素手でほじっていても。
何があっても、担任はその子を庇いました。
いじめられっ子も、それなりに担任を信頼していたようです。
わたしたちは、担任がその子を庇えば庇うほど、解消していたはずのストレスがドンドンドンドンたまっていきました。
そしてある日、それは爆発したのです。
わたしたちは、標的を不細工なクラスメートから偽善者な先生に変えることにしました。
しかし、だからといってその子を無視したりしないというわけではありません。
その子を無視した上で、担任もいじめるのです。
それを企画したのは、クラスのボスといっても過言ではない、お金持ちな男子でした。
続く
- Re: 担任は偽善者 ( No.1 )
- 日時: 2012/01/29 16:28
- 名前: よろし (ID: nWEjYf1F)
お金持ちな男子——彼の名前は斉藤といいました。
彼の家は大きな整形外科で、前、いじめられっ子を除いたクラスメート全員で遊びに行ったとき、三十九名の少年少女に一人一個ずつ有名ケーキ店のチョコレートケーキが配られたのを覚えています。
斉藤君は言いました。
「アイツと担任を同時にいじめる手段はないかな」
「アイツ」とは、いじめられっ子のニックネームです。クラス全員、彼女のことをそう呼んでいました。
「あるよ!」
そういいながら手を挙げたのは、ジュニアモデル事務所に所属している有田さんです。
「わたしたち全員で、明日、担任に無断で欠席するのよ。教室に行くのはアイツと担任だけ。二人だけじゃ授業ができないから、トボトボ家に帰るってワケ」
クラスメートたちは、口々に「いいねー」とか「やろうやろう」と言い合っていました。
しかし、わたしは正直乗り気になりませんでした。なぜかというと、わたしは有名高校への推薦入学を一年生のときから希望していました。だから、あまり無駄な欠席はしたくなかったのです。
「わ、わたしは明日学校行きたいなー……」
恐る恐る口に出してみました。みんなの目が、一瞬凍ったのがよくわかりました。
「あんた、本当にマジメちゃんだよねー。でも大丈夫だよ、生徒の半分が休んだ日は学級閉鎖になって、休んでもいいってことになるの」
「いや、それは知ってるんだけど……」
わたしは口ごもりました。有田さんが教えてくれた内容はとっくの昔に知っていましたが、わたしが言いたいのはそういうことではないのです。
「無断欠席」をしたくなかったのです。
しかし、これ以上言うと今度はわたしが標的にされてしまうような気もします。仕方なくわたしは、
「わかった、じゃあわたしも、無断欠席、する!」
そう言いました。
クラスメートたちは「よく言った!」「よし、明日決行だ!」と騒ぎ始めました。クラスの仲が妙に良いことが福となしました。
そして、次の日の朝がやってきたのです。
続く
- Re: 担任は偽善者 ( No.2 )
- 日時: 2012/01/29 16:41
- 名前: よろし (ID: nWEjYf1F)
「ふあぁ〜、よく寝た」
わたしは大きなあくびをしました。目覚まし時計を見ると、午前九時。この時間から準備をはじめ、学校に行けば大遅刻間違いなしです。
しかし、この日は学校を「アイツ」を除いたクラス全員でサボる日なのですから、全く問題はありませんでした。
母には前日の夜のうちに、頭がいたいと嘘をつきました。母にうそを言うのは心が痛みましたが、やむを得なかったのです。
問題なのは、「学校に連絡をしないで休む」ことでしたが、その日はちょうど母がスーパーのレジ打ちのパートを始めた日だったので、朝はわたし一人。
母は「学校には自分で電話しなさいよ〜」といいながら出かけていきました。もちろん、電話なんかしませんでした。
毎日毎日、勉強や部活でいそがしかったわたしは、ここぞとばかりに遊びまくりました。マンガを読んだりパソコンをしたり、ゲームをしたり。これもそれも、有田様様というものです。
そうして、楽しい時間はあっという間に過ぎて行きました。
そして夕方になり、母はパートから帰ってきました。
「ちゃんと電話した? 具合はどう?」
「したよ。体も大分楽になったから、明日は学校に行けそう」
「そう、それはよかったわ。さぁ、夜ご飯にしましょうか。今夜はギョウザね」
暖かくて優しい母に、またウソをついてしまった……わたしはその時、罪悪感で気絶しそうでした。
次の日、わたしはいつもより早く学校へ行きました。前の日に、家でずっとゴロゴロしていたので、目が覚めるのがいつもより早かったのです。
ガラッ、と教室のドアを開けると、教室の中には、まだ、生徒が一人しか来ていませんでした。
何を隠そう、それはアイツでした。
続く
- Re: 担任は偽善者 ( No.3 )
- 日時: 2012/02/16 17:09
- 名前: よろし (ID: nWEjYf1F)
「おはようございます」
アイツ——吉岡マルヒは、わたしに向かってそう言いました。アイツは、教室のパンジーに水をあげていました。
「……おはよう、ア……えっと、吉岡さん」
思わず「アイツ」といいかけてしまいましたが、彼女は自分がいじめられていることを自覚しているようなので、まぁいいでしょう。彼女は、いじめられていることを自覚している上で、登校拒否にならず親に訴えたりもしないので、いじめる分には楽な相手なのです。
「昨日、みんな学校に来なかったですよね。何かあったのでしょうか」
アイツは、嫌みったらしく、にこりと笑いながら言いました。
「……まぁ、大方、斉藤トモキや有田ユウカあたりが提案したのでしょうけど……流石にあなただけは、無断欠席なんて馬鹿みたいなことはしないと思ってました。ですが、それも見当違いだったようですね」
言い終わると、アイツは水やりをやめました。どうやら、水やりは完了したようです。教室にある綺麗なパンジー。誰が手入れしているのかと不思議だったのですが、まさか「アイツ」だったとは思いもよりませんでした。
「あ、あの!」
「……何ですか?」
「吉岡さん……あなた、毎日パンジーに水をあげてるの?」
どうしても聞きたかった質問。思い切ってわたしは聞いてみました。
「そうですよ。あなたたち、わたしとあの偽善者教師をいじめるのに必死で、花になんか目を配らないでしょう? 罪なきパンジーがかわいそうなので、こうしてわたしが毎日水やりにきているのです」
「そうだったんだ……あ、ありがとう」
何だかアイツに悪いような気がして、わたしはお礼を言いました。
「別に礼を言われたくて花に水をやっているわけではありませんので……あ、そろそろ他の人たちが来ますので、席に着いたほうがいいですよ。わたしと一緒にいると怪しまれますから」
アイツはそう言うと、虫でも退けるように右手を「しっ、しっ」と振りました。確かにそのとおりだったので、わたしは自分の席へ着きました。それと同時に、教室にわたしの親友の中村モミジちゃんが入ってきました。
「あ、おはよう、ナッチ! 今日いつもより来るの早いね!」
ナッチ、というのはわたしのニックネームです。
「おはよ、モミジ! 久しぶり〜」
「本当だ! 一昨日振りだね」
モミジはそう言うと、アイツのほうを向いてクスッと笑いました。
「アイツ、いっつも一番早く学校にくるんだよ。そんなに学校に来るのが楽しみなのかな? それっていじめられるのが楽しみってことだよね。Mなんじゃない?」
「そ……そうだね」
わたしは、アイツがそんなくだらない理由で学校に早くきているのではなく、パンジーの水やりのためであることを知っています。
ですが、アイツいじめ賛成派の幹部的位置にいるモミジの前で、そんなことは言えませんでした。
アイツは、わたしのことを、じーっと見ていました。
続く
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