社会問題小説・評論板
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- この風を感じないのか
- 日時: 2014/11/04 23:32
- 名前: 佐藤 (ID: OxFItNy1)
諸君はこの風を感じないのか。
僕らの未来圏から吹いてくる、清潔で力強いこの風を。
風は僕らに語りかけているのだ。
明日を歩もう。風に乗って、世界という大きな海に荒波を立ててやろうではないか。
僕らならばできるのだ。
さあ、ゆこう。いま、風と共に。
閲覧ありがとうございます。
【※上の詞は、宮沢賢治氏の詞をベースに、当小説のイメージに沿って佐藤が改編させていただいたものです。】
佐藤です。高校受験がすぐそこです。
今回は社会問題ということで、リストカットをしている友人の話を書きます。飽き性の上、更新もまばらになると思いますが、完結を目標に頑張ります◎
あまり読んでいて気持ちのいい話ではないかと思いますが、ぜひ応援お願いします^^
[注意事項]
※巧みな文章力はありませぬ。伏線張ったりできませぬ。(練習がてら挑戦しようかな)
※誹謗中傷、チェーンメール等他人が見て不快になるものはやめてください。
※更新亀さん。
- Re: この風を感じないのか ( No.1 )
- 日時: 2014/11/06 22:01
- 名前: 佐藤 (ID: OxFItNy1)
彼女の泣き声で目が覚めたのは、今日が初めてではなかった。弥はベッドの下に転がっていた皺のあるジャージを拾い上げた。隣で眠る彼女は、言葉にならない声で小さくうめいている。
その彼女、真宮とは中学からの付き合いで、なかなか切れない糸があるようだった。同棲を初めて3年が経ち、こうして狭いベッドで二人肩を並べて眠るのにも慣れてきた。無論、友人という間柄ではない。中学から6年間、弥と真宮は交際を続けている。
真宮の容姿は、美しいとも言えないし醜いとも言えない。普通といえばそれも違う気がするが、初めて彼女を見たとき、肩まである黒い髪を「綺麗だ」と思った。純潔、清純…彼女の一番の長所は、形容しがたい美しさがあった。
「君は本当に、髪が綺麗だ」
いつの間にか泣き止んで、可愛らしく寝息を立てる彼女は、髪を淫らに伸ばしていた。弥は割れ物を触りでもするように髪を撫でた。
朝の5時。昨晩は大学に遅くまで残っていたようだから、彼女も相当疲弊しているだろう。
- Re: この風を感じないのか ( No.2 )
- 日時: 2014/11/07 23:05
- 名前: 佐藤 (ID: OxFItNy1)
地元の私立大学で、真宮は経済を学んでいる。彼女は中学高校と安定した成績で、授業態度も良好。そのため、教師からは成績優秀な“デキる”生徒という扱いを受けていた。本人はあまり良く思っていなかったらしいのだが、出会った頃は、弥も彼女のことを「文学系の落ち着いた子」と位置付けていた。実際は的外れだったわけだが。
弥は駅前のラーメン屋で接客のバイトをしていた。特に取り柄はなく、頭が言い訳でもないので、面接での自己アピールには困らされた。三日三晩悩んだ挙げ句、「人と接するのが好きです。ちなみに、友人と会った時にはかならず社会的なニュースなどについて論争をしています」と、支離滅裂なアピールともいえないアピールをした。
「真宮、布団しっかりかけないと風邪ひくよ」
暴れ馬になった夢でも見ているのか、突然彼女は手足をバタつかせた。落ちかけた布団を彼女にかけ直してやりながら、「しょうがないなぁ」微笑を浮かべる。ほんとうに、よく眠っている。
どうせ今日は学校も休みだし、ゆっくり寝させてやろう。弥は枕元に転がっている時計のアラームを解除した。
「もうちょっと、一緒にいて」
弥がベッドから降りようとした時だった。真宮が掠れた声で呟いた。起きていたのか、と少し驚いたが、これも珍しいことではなかった。「いつでも傍にいるよ」弥は体を捻り、不安そうに目を泳がせている彼女の頭を撫でた。暴れ馬になっていたからか、少し汗をかいていた。
- Re: この風を感じないのか ( No.3 )
- 日時: 2014/11/16 14:57
- 名前: 佐藤 (ID: OxFItNy1)
- プロフ: よろしくない表現がありますので、閲覧注意です
弥がバイトをしているラーメン屋「一心」は、店内はそう広くないにも関わらず、平日のお昼時にはサラリーマンなどで溢れる。味には自信がある。店長の田辺さんは手拭いを頭に巻き付けて笑顔でラーメンを作っている。
「弥くん休憩入っていいわよ。いまあっちの部屋にまかない持ってくからね」
弥に微笑みかける加代子さんは、年齢を感じさせない美貌だった。この人を見ていると、田辺さんはいい女を貰ったなと羨ましく思う。夫婦揃って元気があり、本当にお似合いだ。一心では名物夫婦と言われている。
「そういえばねえ、私の知り合いが裁判員に選出されたんですって。怖いわよねぇ、もし死刑判決とかになっちゃったら」
「責任がありますからねえ」
「弥くんも、もう大人だから覚悟しとかなきゃいけんよ。まあ誰に通達があるかは来てみないとわからねぇんだけどね」
「そうですね...」
自分より年上の方と昼食を共にする事にはもう慣れたが、人生の教訓を聞かされるのにはどうも慣れなかった。弥は自分が臆病であることはよく分かっている。真宮には、シャボン玉も怖くて割れないような男、と馬鹿にされたことさえあった。腹は立たなかった。本当にその通りなのだ。
「でも、死刑制度って必要だと思う?」
餃子をつつきながら、加代子さんが暗い表情で呟いた。彼女にしては元気がないように感じた。すぐに周囲は話題に食い付き、唾を飛ばしながら賛否両論している。弥は口を開かなかった。
もし、真宮が誰かに殺されたら。その誰かが裁判にかけられたら。自分はどうなるのか。怒り狂うのか、哀しみに溺れるのか。或いは彼女の後を追うのか。分からない。その誰かに対して、自分はどんな感情を向けるのだろうか。
きっと一方の人間は「死刑」を求める。自分は? 自分はなにを求める? 死刑か?死んで償う。真宮を殺したんだ。お前も死ぬのが道理ってやつだろう。
本当にそうか?死ぬことが真宮の死ほどの価値を有するのか?
「僕は、」
渉は箸を置いた。声が震えているのに気付いた。
「僕は、相手に死んで欲しくない」
若者が震えながら甘ったれたことを、と年長者たちは頬を緩めた。
「弥くんは優しいのね。でも実際に大切なひとが殺されたとしたら、それで気持ちの整理がつくのかしら」
加代子さんが言う。
「優しさじゃありません。死なずに、生きて、償ってほしいんです。日本は絞首刑だから、首を吊ってからの数秒、或いは数分しか苦しめられない。それじゃ足らないと思うんです。生きて、何年も何年も、死ぬよりも苦しい罰を受けて欲しいんです」
お昼時の賑やかな休憩室は、急に静けさを持った。
- Re: この風を感じないのか ( No.4 )
- 日時: 2015/02/27 00:25
- 名前: 佐藤 (ID: OxFItNy1)
- プロフ: お久しぶりです。
中学は、小高い山の中にある古い校舎だった。窓から見えるのは管理の行き届いていない生い茂った木々と、お墓だけ。
はじめて真宮という存在を知ったとき、彼女はただ頬杖をつきながらその景色を見つめていた。
窓際前から3番目の席。そこが、弥と真宮のはじめの居場所だった。
「真宮さん、だよね。隣の席なんだ、よろしく」
「よろしく、多岐くん」
はっきり言って気まずかった。弥は、いつも彼女の姿を見まいと黒板の一点を見つめていた。真宮もまた窓の外を見つめていたため、結局二人の視線は進級から1ヵ月後にやっと交わった。
それも、最悪の交わり方だった。
「どうしたの、真宮さん。次理科室だよ。早く行かないと、」
誰もいない教室、弥は言葉を飲み込んだ。その腕の傷はなに?どうして血のついたカッターを持っているの?どうして泣いているの?
それが「リストカット」と呼ばれる自傷行為であることは知っていた。それが良いことではないのも知っていた。だから、弥には彼女にかけるべき言葉が見つからなかった。
「ごめんなさい、ごめんなさい。汚いものを見せてしまって、」
彼女は震える声でただ謝って、震える腕で左腕を何度も擦った。だが弥には、その行為のほうがよっぽど自傷に思えた。
「汚くなんかないだろ」
咄嗟に彼女の左腕を掴んだ。捲られた制服の隙間から5、6本の赤い横線が覗いている。それは今も、血を流し続けていて、弥の手にもそれは付着した。
「多岐くん、やめて。だめだよ、手離してよ、お願いだから」
真宮は混乱しているようだった。とにかく、弥を「拒否」するための単語を発していた。
これからどうすればいいのかなんて、分からなかった。
「お願い、あ、謝るから、」
こんな風に怯える彼女に、自分のような人間が説教をする権利などないと思った。ただ、それだけはできなかった。
「真宮は綺麗だよ」
口をついて出た言葉の、無能さと無価値さに呆然とした。
「この血は、真宮が生きてる証拠なんだよ。君がいま、ここにいる証拠なんだよ。汚いわけないじゃないか」
真宮は、大きく目を見開いて、それから閉じて、大粒の涙を溢れさせた。
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