社会問題小説・評論板
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- とうめいにんげん
- 日時: 2015/12/14 17:28
- 名前: パスカル (ID: 3NNM32wR)
———私は、誰にも気づかれないの。
———皆ね、見ないふりをしてるの。
———私は、汚くて穢れてるってね。
———とうめいにんげんなんだ、私。
彼女は此処で、寂しく笑ったのだろうか。
僕にはわからないし、きっと、彼女も覚えてなんかない。
- Re: とうめいにんげん ( No.1 )
- 日時: 2015/12/17 12:37
- 名前: パスカル (ID: 3NNM32wR)
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「先生の名前は、桑原 真紀子です。ちゃんと覚えてくださいね!」
新しい担任のその声で、うちははっと目を覚ました。
教室の位置は、少し遠くなった。教室の中は、少し、少しだけ、綺麗になった。そのくらいしか、昨年度までのうちの周りと、今のうちの周りは差がなかった。
美作 祐季、十一歳。今日から小六になる。
トモちゃんなんかは、「なんか感慨がある」って言ってたけど、うちには感慨だとか、感動だとか、そんな感情は一切なかった。
「まずは教科書に名前を書いて——」
毎年毎年、変わることのない先生の話。「最上級生であるという自覚を持って……」そんなことは分かってる。聞きたいとも思えない。
春の柔らかい日差しが少し眠いうちにはちょうどいい。
校庭の桜を窓から見下ろしながら、そう思った。
「ゆーきーちゃーんー、ゆーきーちゃーん!」
「あ、美輝ちゃん。先生は?もう職員室いったん?」
「うん。なんか、転校生?連れてくるって言っとったが」
「寝とったけえ聞いてねんよ。春って眠い季節じゃし」
何年間か、暫く同じクラスの山田 美輝は意地悪な女子とか、悪ふざけが過ぎる男子に、度々“剛毛”、“ごわごわ”と揶揄される髪の毛を触りながらぼそぼそと話す。そんな事でさえ、虐められる原因になる。
「あ、祐季ちゃん!やっと起きたん?———昨日のMステ見た?嵐出とったよなぁ……あたし嵐はやっぱり相葉くんじゃって思うんじゃけどさ」
「うちも相葉くんかな。一番性格よさそうだし」
追い出すように、トモちゃんが来る。矢野 友香。美輝ちゃんの大嫌いな人。美輝ちゃんを見て、「剛毛じゃん」と呟く。
聞こえないふりをして、うちは横を向く。「桜綺麗だね」って、何事もないように。何も知らないように。ウソつきなのだから。
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