社会問題小説・評論板

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君へ
日時: 2015/12/25 15:02
名前: 榛野 (ID: 3NNM32wR)



 私の話を、君へ。

Re: 君へ ( No.1 )
日時: 2015/12/25 15:27
名前: 榛野 (ID: 3NNM32wR)

第一話(一)


 中学生になるんだ、って多希は思った。
 自分がそうなるなんて、信じられなくて、卒業は意外にも早くて、十二年は全然長くなんかなくて、ただ大きな中学校の校舎の前に立ち尽くす。


 「香椎!おはよ」
 「おはよ、夏木」


 後ろから勢いよくぶつかってきた友人、夏木明莉といつも通りの挨拶を交わす。このまま変わらなければいいのに、だなんて甘い願いはどうせ砕ける。
 クラスも変わって、今までバカ騒ぎしてたメンバーはあっという間に他の場所で真面目に勉強しだして、あたしだけ取り残されちゃうのだろうか。

 
 「一緒だったらいいなー」
 「まあなー。でもさ、他のクラス行ってもアタシらは変わんないよ。自分の場所でやりたいことやって、気が向いたら一緒に遊ぶ。いいじゃん」
 「そだね」


 寂しいよ、だなんてどの口が言えるだろうか。今まで素直になれなかったツケが、ここまでやってきて、大事な友達にさえこんな始末だ。
 バカじゃないの、あたし。


 「でもさ、なんか、入学式って感じしないな。昨日の雨で水たまりばっかりだし、桜がこんなに落ちてるし。香椎はやっぱりチビだし」
 「一日二日一か月で身長が変わるわけないじゃん、バーカ」


 そういってアッカンベーをする。
 クラス分かれたとしても、今だけは笑っていたいと思った。

Re: 君へ ( No.2 )
日時: 2015/12/25 15:41
名前: 榛野 (ID: 3NNM32wR)


第一話(二)


 「やっぱり分れちゃったね」
 「まっ、予想通りってとこか」
 「だってあたしら仲良かったし。絶対わざと分けたな」


 恨めがましくクラス表を睨みつけた。夏木は少し残念そうで、それが少し嬉しくて、だけどやっぱりクラスが分かれた痛みのほうが、胸にじいんと来た。
 いつか、夏木とまた同じクラスになれる日は来るのかな。
 ———入学したてで「いつか」って。あたし暗いな。


 「まあ、行こっか」
 「よし、行こっか」


 夏木がスリッパを取り出す。小学校の頃の上靴が何でか恋しくなってきて、スリッパの新しさを受け入れられない気がしながら足を入れた。
 これから三年間でこんな大きくなるのかな、ってくらいぶっかぶかだ。


 「悪意ありすぎやわ。……ちょっとアタシ寂しいかも、香椎は?」
 「一組と八組はさすがに悪意の塊だよね。酷っ」


 もう、そんな話しないでよ。胸が痛くて、寂しくて泣きそうになる。
 あと少し階段を昇ったら、夏木は左に曲がって、あたしは右に曲がる。そんな大袈裟なってなるかもだけど、「永遠の別れ」みたいでいやだ。


 「あー、もう階段終わっちゃったな」
 「だね。右行かなきゃ」
 「アタシは左」


 大袈裟だけどやっぱり、「永遠の別れ」みたいだ。
 夏木、振り向いて変顔とかしないかな。卒業式のは傑作だったけど。
 やっぱり、あたしが振り向こうかな。


 「香椎!」
 「夏木?」
 「今度、家か八組か来いよ!———本、返してもらってねえし!」
 「うん!行く!」


 全然「永遠の別れ」じゃないじゃん、大袈裟すぎだ、やっぱり。
 

 「じゃあ、『またね』!夏木」

Re: 君へ ( No.3 )
日時: 2015/12/28 16:12
名前: 榛野 (ID: 3NNM32wR)


第一話(三)


 それから教室に入ると、———がらんとしていた。
 新しい机と落書きが少しある古い机、後ろの壁には何も貼られていなくて、黒板には「入学おめでとう」の文字があった。
 全然、いつもと違う。


 「担任、誰だろ」


 誰もいない教室で、一人でポツリとつぶやいてみる。夏木はいない。
 誰か来ないかな、と思った。基本的にあたしは、一人でいることに慣れてない。誰かがいないと何も出来ない弱虫だから、一人が怖いんだ。
 

 「おはようございます……」


 女子にしては少し低めの声。——男子かな、と思ったら全然違った。
 リスみたいな顔で、少し丸めの、小柄な可愛い女の子だった。
 

 「おはようございます、香椎 多希です!あ、えーと……」
 「小森 環奈っていいます。これから一年間よろしくね」
 「ハイッ、よろしくお願いします」

 
 小森さんが笑顔で返してくれたのが何だか、恥ずかしいような嬉しいような。自分のバカさをそのまま跳ね返されたような気もするし、そんなバカに対してちゃんと返事してくれたのがうれしい気もするし、分からない。


 「えーっと……あー……」
 「香椎さんって、どこ小出身?あたし坂根小だよ」
 「坂根東小です」「タメでいいよ」
 「へ?」

 「だからさ、敬語使わなくていいって」


 ……唐突に何だって、思うかもしれないけど、あたしは、人見知りだ。
 会って一時間と経たない人とタメ口で語り合うなど、出来た試しがない。夏木とでさえ、そんな短時間じゃ無理だった。


 「はい……うん」
 「よろしい。あと、小森さんじゃなくていいよ。あたしもタキって呼ぶ」


 小森さん……改め、環奈ちゃんはまた笑顔でそう言ってくれた。
 なんとなく、なんとかなる気がした。


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