社会問題小説・評論板

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涙の後には
日時: 2016/01/04 11:09
名前: 春川 小毬 (ID: 3NNM32wR)



○あたしはそれから、故郷に帰ってきた○

・神奈川 明希
・千葉 裕貴

○俺はそれから、臆病で弱虫なまま○

Re: 涙の後には ( No.1 )
日時: 2016/01/04 11:25
名前: 春川 小毬 (ID: 3NNM32wR)



 久しぶりの故郷だった。
 田舎くさい田んぼが並ぶ道とか、綺麗な空とか、田舎特有の長所は何も変わってなかった。強いて言えば、「懐かしのあの店」が消えちゃったくらい。
 風景に何も変わりはないけれど、同級生は誰もいなかった。いや、同級生だけじゃなくて、先輩も後輩も、若者は皆が都会に出てったらしい。
 ——勿論、あたしも。

 「久しぶり!アキ」
 「久しぶりー、夏奈子」

 元気よく挨拶したのは、少し恰幅が良くなって、同時にいいお母さんにもなった元・同級生の綾瀬(今は渡辺) 夏奈子。数少ない故郷に残り組のうちの一人。
 あたしが此処に来たのは夏奈子からメールが来たからだった。
 「時雄が結婚式やるんだけどさ、アキも来るよね」だなんて、絶対に決めたことを断わらせない夏奈子らしい文面だった。
 
 「しっかし変わったねー、太った?」
 「んー、そうなんよなぁ。三十路もそろそろじゃしさ」
 「別にまだまだじゃろ、あたしらまだ二十五じゃし」

 夏奈子に釣られて思わず訛る。懐かしい響きが、やや痛い。

 「でさ、いつまで此処おるん?結婚式終わったらすぐ帰るとか、そんな寂しい事せんやろ、アキは。皆どうやら一週間はおるらしいしねえ」
 「あたしはすぐ帰るわ、迷惑掛けるのも悪いし。あの家、嫌じゃし」
 「早う仲直りしてくれんと、うち等が気まずいんやけどねー」

 責めない響きも、笑いながら言う夏奈子も、痛い。

 「ああ、冗談じゃから!大丈夫じゃけん、ね」

 あたしの気まずい様子が分かったのか、夏奈子は笑ってとりなした。ホント、こういう気配りは昔からうまかったんだなって思いだした。

 「まあ、家に泊まってくれりゃあええしなあ」


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