社会問題小説・評論板
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- 失くしたものが愛しいとは限らない
- 日時: 2016/02/23 04:36
- 名前: コウイチ (ID: xWb3RKDE)
人間には必ず父と母なるものが存在する
もちろん、いろいろな理由でいなくなる父母がいるのもまた事実だ。
ではどのような理由で?
理由なんて腐るほどあるし、ありふれている。
でもここでは、ありふれているわけでもないけれど、聞きなれたわけでもないちょっと変わった家族のお話。
最初は何の変哲もない日常から始まる話。
中学二年の夏から塾に通い始めた。
自分の意思で通い始めたこともあって、成績は面白いほど上がっていった。最初は5教科100点満点のテストで合計270点ほどだった私が、中学三年になって400点超えは当たり前になった。
性格だって明るいほうだし、友達もたくさんいる。
小さな町だからみんな仲がいいし、ほとんどの人が顔見知りだ。
何一つ不自由しないまま育ってきた。
「ただいま。」
「お帰り、あいり。遅かったね?」
そういいながら晩御飯の支度を手際良くこなすのは私の母だ。
「聞いて!今日ね、学校祭の合唱コンクールの指揮者決めてたの!それでね、私指揮者やることになったんだよ!!」
「えっ!あいりが指揮者!?つとまんのかい?」
そういって母は少し笑う。
「大丈夫だって!だからさ、最後の学校祭、絶対見に来てね!!」
「うん、見に行くよ。」
「明日から練習するって先生言ってたから、帰り遅くなる。」
「わかったよ〜」
それから毎日練習を重ねた。家でだって練習した。
合唱に力を入れているうちの学校だからだろう、みんなも真剣に練習に取り組んでくれた。私が指揮を振っている姿を早く母に見せたかった。学校祭が待ち遠しかった。
そうしてやっと訪れた学校祭当日。
観客席に母の姿はなかった。
「あんなに言ったのに…まさか忘れたのかな…?」
不安。でもそんな不安も、緊張で消えてしまった。
結果は、銀賞。なかなかの好成績を出せていい形で学校祭は締めくくられた。
ただ、私の心のどこかに、不安がこびりついたままだった。
忘れたのか。来たくなかったのか。面倒だったのか。
マイナスな理由しか思い浮かばない。
早く家に帰ろう。そう思った。
「ただいま〜・・・」
なんとなく、家に入りづらい。なんだか気まずい気がして。
「おかえり〜!ごめんね、今日いけなくて。急に体調が悪くなったの・・・。今はもう治ったんだけど、本当にごめんね…」
……よかったぁ…
一気に安心感がくる。
「そっか。無理しないほうがよかったよ!あのね、銀賞とったんだよ!!」
「本当!!よかったね〜〜〜!!あ〜、私も行きたかったなぁ。」
「まぁ、無理に来て倒れたりとかしたら大変だしさ。無理はしないほうがいいよ。」
「そうだね。」
「そういえば、お父さんは?最近お父さんの車家に置いたまんまだけど。」
「あぁ、お父さんね、最近は同僚の人の車でお仕事に行かなきゃだめなんだって。」
「あっ、そうなんだ。」
信じて疑わなかった。今思えば、母は演技がうまい。
【一話終り】
- Re: 失くしたものが愛しいとは限らない ( No.1 )
- 日時: 2016/02/23 04:56
- 名前: コウイチ (ID: xWb3RKDE)
学校祭が終わってから、周りがざわざわし始めた。
受験が近づいている。
人生の最初の選択といっても過言ではない高校受験。
私は、交通の便が悪いこの町を飛び出して、もっと大きな街に出るつもりだった。私の学校は大半の生徒が近くの高校へ流れ込む。
遠い高校を受験するのは私ぐらいだった。
受かるかどうかは、分からない。
模試で一応合格率98パーセントは出た。後は気を抜かなければいけるだろう。塾の先生にもそういわれた。
時が過ぎるのは早く、長いはずの冬休みは受験勉強に費やして終わり、あっという間に受験は来月というところまで来てしまった。そんなある日、母が珍しく真剣な顔をして私に話しかけてきた。
「あいり。ちょっとそこ、すわってくれる?」
ストーブの前に座った私は緊張していた。
母がこんな顔をするのか、というくらい真剣、いや、思いつめている顔をしていたからだ。
「あのね——」
「お 父 さ ん が 逮 捕 さ れ る こ と に な っ た の」
「…え?」
耳を疑った。なにそれ。
た い ほ ?
逮捕。
なぜ?
「ごめんね…ずっと黙ってて。言うなって言われてたから…」
「なんで…?どういうこと…?」
声に出したと同時に、目から水がたれてくる。
涙だ。泣いてるんだ、私。
思考がついていかない。
「収賄罪っていってね、ずるいことをしてお金儲けしてたの。」
「いつ…から…」
「去年の…冬あたりから。 ……本当に、ごめんね。大切な時期に……」
母の目からも涙が零れる。
そこから、転落人生は始まる。
【第二話終り】
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