社会問題小説・評論板
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- あなたは最後にこう言った
- 日時: 2016/05/29 08:21
- 名前: 牧野。 (ID: l8Wvg9Qa)
牧野と申します。
語彙力まるでありませんが、温かい目で見守っていただけると幸いです。
- Re: あなたは最後にこう言った ( No.1 )
- 日時: 2016/05/29 08:34
- 名前: 牧野。 (ID: l8Wvg9Qa)
私は、生まれてこの方、「人間」というものに興味を持ったことがなかった。
人間というのは、動物であるが、犬や猫などの動物よりは賢い。ただそれだけだった。強いて言うならば、火を使うあたりが賢いのであろう。私はそんなこと思わないけれど。
小学生の頃、クラスでいじめがあった。担任は、「人は支え合って生きていくものだ」と、「どうして仲間を大切にできないんだ」と怒鳴った。
まさにその通りだと思う。
けれど、そんなに上手くいく世の中ではない。
皆が人を思いやっているのなら、戦争なんて起こるはずがないのだ。大人は、子供を注意する。しかし、本来注意されるべきは何よりも大人なのだ。
大人は隠すことや騙すことが得意だ。それは今までたくさん経験してきた。所詮、「人間」というものは自分の都合だけで世間を巻き込む屑なのだ。
こんなに深いことを考えている私が、公衆の面前で馬鹿にされるだなんて誰が思っただろう。
誰が、どれだけ、衝撃を受けたのだろう。
あなたは私にこう言ったのだ。
「そんなことも分からないの?」と。
- Re: あなたは最後にこう言った ( No.2 )
- 日時: 2016/05/29 08:48
- 名前: 牧野。 (ID: l8Wvg9Qa)
「そんなことも分からないの?」
文字面だけを追えば、私を見下した言葉だろう。
周りにいた人間たちも、私を馬鹿にした発言だと思ったはずだ。
しかし、これは挑発でもなんでもない。彼女の瞳が、真剣さを物語っていた。
「どうして?」
澄んだ鈴のような声で彼女は続けた。
「どうしてあなたが、そんな簡単なことを知らなかったの?」
その声には、ずっしりとした重さがあった。
けれども、その言葉が私の胸に届くことはなかった。なんせ私は、人間にまるで興味がないのだ。発言の意味をしっかり捉える気もない。彼女の言葉を理解するのには、少し時間がかかる気がした。
「……なんのこと。」
私は、普段あまり発しない弱々しい声で彼女に問いかけた。
「あなたはいつも、何かを考えていた。」
彼女は、一度も笑うことなく言い放った。
「そんなあなたが、常識を知らない……。ふざけているとしか思えない。」
やはり、私に彼女の言葉は理解できない。
- Re: あなたは最後にこう言った ( No.3 )
- 日時: 2016/05/29 12:00
- 名前: 牧野。 (ID: l8Wvg9Qa)
家に帰り、ひと息ついた。
私の家は祖母の祖父が建てたとても古い家だ。代々此処の地主であるためなのかは分からないが、只ひたすらに広い面積を私有地としている。はっきり云わずとも無駄すぎる広さだ。
私が生まれて三年の時が経った頃、母は死んだ。
その二年後に、父が自殺した。
裕福な家系に生まれ、作家である父と結婚した母の死因は、今も不明である。きっと、父が気を利かせて云わなかったのだろう。
有名な作家であった父は、毎日のストレスと創造力の衰えによって自殺した。
私は、生まれてから僅か五年で両親を亡くしたのだ。
「ただいま。」
何時か、本で読んだ人間のマナー。外出の際は、行ってきます。帰宅すれば、ただいま。
週に一度お手伝いがやってくるこの家で、私は誰に縋ることもなく独りきりで生きている。
無駄に広すぎる家は、かえって私の心を痛めつけた。
「……宿題を……しなければ……。」
誰に届けるわけでもない声を発し、鞄を弄り始める。
- Re: あなたは最後にこう言った ( No.4 )
- 日時: 2016/05/29 12:12
- 名前: 牧野。 (ID: l8Wvg9Qa)
「……あ。」
小さく、声をあげた。
宿題の教材を、学校に置いてきてしまった。
「……あ〜……!!」
はっきり云わずとも面倒だ。何故宿題ごときの為にこの寒い中を……。
?寒い?
ふっと思い立ち、窓の外を見る。ガラスには無数の水滴がついていた。
近くにあった新聞を手に取り、天気をまじまじと見る。
「雨」
それだけ、本当にそれだけの情報が書いてあった。
「嘘でしょう……。」
床に倒れ込む。
人間に全く興味のない私だが、まさか自分のことまで忘れていたとは。今日、私は傘を差して帰ってきたのだろうか。今日、私は……。
玄関まで行くと、傘立てに一本のビニール傘が置いてあった。まだ水滴がついている。私は、これを差して帰ってきたのだ。
驚いた。こんなに自分のことを意識しない中学生がいていいものなのだろうか。
気付けば、今日話した彼女の顔も忘れていた。
- Re: あなたは最後にこう言った ( No.5 )
- 日時: 2016/06/12 10:02
- 名前: 牧野。 (ID: l8Wvg9Qa)
仕方なく宿題は諦め、音楽を鑑賞することにした。CDプレイヤーを使うに当たって、私はいつも説明書を読まなければいけなかった。なんせ、このプレイヤーを使ってまだ3か月ほどだ。それまで古いオーディオを利用していた為、使い勝手が良く分からない。
なんとかセットを完了させ、一曲目を流す。コーヒーでも飲もうかしら、とキッチンに向かい、コーヒーを淹れる。
私は、なんの変哲もないただの子供なのだ。
だのに、どうして皆は私を非難する。
どうして、私の考えは難しいと言う。
まあそんなことも、無意識に生きている私には関係のないことなのかも知れないけれど。
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