社会問題小説・評論板
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- 残酷な報い
- 日時: 2017/08/20 18:10
- 名前: しじみ (ID: LJMHYFdO)
すべては嘘から始まり、嘘で終わるのだ。
- Re: 残酷な報い ( No.1 )
- 日時: 2017/08/20 18:14
- 名前: しじみ (ID: LJMHYFdO)
美しい鳥の鳴き声で目が覚めた。
重い体を起こすと、胸がグッと痛む。
背後に不安という名の怪物がいるような、そんなどうしようもなく情けない感情を押し殺し、私はベッドから立ち上がった。
私立秀東華学院中等部の、優れたデザインの制服に身を包む。高等部よりも明らかに可愛いデザインだ。でもそんなの興味ない。
私、高ノ宮 泉にとっては、そんなことどうでもよかった。
ただあるのは、今日も私につきまとう罪悪感、そして行き場のない不安だけだ。
- Re: 残酷な報い ( No.2 )
- 日時: 2017/08/20 18:21
- 名前: しじみ (ID: LJMHYFdO)
制服を着こなし、ゆるやかなウェーブのかかった髪を緩くポニーテールに結って、私は学校へ向かった。
秀東華学院の門に足を踏み入れると、ふわりとした風が吹く。
それさえも不愉快なほど、私の気持ちは浮かなかった。
軽く舌打ちをすると、側にいた生徒がこちらを見ているのに気付いた。そちらを不機嫌顔のまま睨むと、「ひぃっ」と情けない声をあげてその生徒は震えだした。
「ごめんなさい、泉さん…!泉さんのご機嫌がよろしくないなんて、何かあったのかと思って…」
おろおろと顔を真っ青にして、命乞いをするように私にそう告げる。
嘘おっしゃい、と言いたかった。
私が機嫌悪いのなんて、いつもじゃないの。
そんなつまらない言い訳、言うだけ無駄でしょう。
それでも私は人のことをとやかく言う立場にはない。私は「なんとも思ってないわ、大丈夫」とだけ言って軽く口角を上げ、くるりと後ろを向いて校舎に向かって歩き出した。
- Re: 残酷な報い ( No.3 )
- 日時: 2017/08/20 18:28
- 名前: しじみ (ID: LJMHYFdO)
私は、人の嘘にとやかく言える権利はない。
なぜなら──
「おはようございますっ泉さん!」
耳をつんざくような高い声に、私は我に返った。
振り向くと、長い髪を二つに束ねた女生徒が笑顔で立っている。
「…おはよう、冴理」
ため息交じりの私の挨拶すらも嬉しいというように、冴理は一層顔を綻ばせた。
私はこの学園内でのヒエラルキーの頂点だ。
でも別に、お金持ちでもなんでもない。中学から私立に通える程度の、ただの一人っ子だ。
それなのに、入学した日、友達を作らなかったことがきっかけで私に対する色々な噂が広まった。
「高ノ宮さんって、お嬢様って感じしない?」
「え、私は本当のお嬢様だって聞いたよ」
「本当?素敵、憧れちゃう」
そんな噂は、当然同じ教室にいるわけだから私の耳にも入った。
それでもなんだか気分が良いので、そのままにしておいた。するとそのおかげで、噂はみるみる肥大化していった。
- Re: 残酷な報い ( No.4 )
- 日時: 2017/08/20 19:31
- 名前: しじみ (ID: LJMHYFdO)
友達がいなかった上に、最初の方の自己紹介で軽く名前だけ名乗ったため、誰とも会話を交わしたことなどなかった。
人は人を、話し方や仕草で判断する。
みんなには私を判断する手段がなかったのだ。そして私がお嬢様だという噂を咎めないことで、何気なかったはずの噂はだんだんと肯定されていく傾向にあった。
「ねえねえ、高ノ宮さん、お嬢様って本当?」
ある日そう声をかけてきたのが、立川冴理だった。
当時冴理はクラスの最高権力者、つまりリーダー格だった為、話しかけられた時は少し緊張した。
「──あ…」
そろそろ潮時かな、と思い、違うよという言葉が喉まで出かかったとき。側に居たクラスメイト達が、満を持したように声を発した。
「別荘持ってるって、本当!?」
「お父さんのお仕事は何?」
「家って広い?」
今まで溜めてきた、半分以上肯定してきた噂を更にガッチリと固めるように、どんどんと質問してくるクラスメイト。
気付かない間にこんなに噂が広まっていたのかと思うと、急に焦りがやってきた。
ここで私が違うと言ったら、みんなはきっと興醒めして私から離れていく。
本当は、友達がずっと欲しかった。でも言えなくて、そんな欲を心の内に秘めてた。
せっかくのチャンスを、逃したくない…そんな思いから、気付いた時には
「うん、大したほどではないんだけどね」
と笑っていた。
- Re: 残酷な報い ( No.5 )
- 日時: 2017/08/21 00:40
- 名前: しじみ (ID: LJMHYFdO)
やってしまった、と気付いた時にはもう遅かった。
クラスメイトはきらきらとした目で私を見てくる。
私は認めてしまったのだ。根も葉もない噂を。
嘘つきになってしまったのだ。
そこからの展開は早いもので、私はあっという間に「お嬢様」として特別扱いを受けていた。
何故人間はこうも軽率なのか、クラスのピラミッドの頂点にいた冴理は私のお零れをもらう為にまんまとその座を降りた。
その代わりに頂点に立たされたのが私だ。
私といると輝ける、そんな欲に負けたのかもしれない。
でも今まで自分が維持してきた立場をあっけなく手放すなんて、冴理の神経は私にはよく分からない。
そんなことはともかくとして、私は今日も本当のことがバレるのではないかと冷や汗を滲ませて登校している。
バレてはならない、もう後戻りできない。
せっかく築いたこの立場だ。どうせバレるなら最高に利用しきってから真実をバラされたい。
自滅するか、誰かに滅ぼされるか。
私は今を、必死に生きていかなければいけない。
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