社会問題小説・評論板

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六年一組物語
日時: 2018/02/09 21:25
名前: ぽぽ (ID: PLnfHFFW)

*第一章 六年一組*


『いじめのなく、みんな明るく優しい』六年一組の、暗黙の了解。——それは、真田沙織をいじめていいという事だった。



 女子たちの愛くるしい笑顔の裏には、恐ろしい悪魔の笑みがある。
 他愛なく、みんなでにぎやかに話していると思えば、誰かの悪口。まあ、そういう年頃だから、しょうがないといえばしょうがないかもしれないけれど。

「沙織って俊のこと好きらしいよ」
「塾でめっちゃ成績悪いんだってさ」
「賢人のトランプを無くしたらしいよ、しかも謝罪もないって」

 次々と羅列される沙織の悪口。どれが本物で、どれが偽物か、全くわからない。でも、楽しい。なぜだろうか、そう思ってしまう。

 ただ、事実なのは、極度に空気が読めず、人と感性が違い、自己中心的で、みんなから嫌われている。でも、それに気づかない、馬鹿野郎という事だけかな。少なくとも、それは、本当なのだと思う。だって私もみんなも、そう思っているのだから。





 キーンコーンカーンコーン、と、チャイムが鳴る。一時間目の始まり。それと同時に、先生が教壇に立った。

「はーい皆さん、一度、席について」

 みんながため息をつきながら、渋渋それに従った。 

 先生は皆が座ったのを確認すると、一度眉をぴくっと上にあげ、口を開いた。うーん、多分、長くなるだろうな……、きっと、お説教かな、先生の雰囲気的に。

「えー、皆さんに話さないといけない事なのですが、真田さんの上履きが、女子トイレの便器の中に入っていたそうです」

 ざわざわと、教室がざわめいた。その中には、勿論の事、少し笑いも交じっている。私は先生にばれないように、下を向いてひくひくと笑った。声が出ないよう、必死で口を押さえて。すると明里が、私のほうをちらりと見た。

「ね、美咲、きっと今、あたしも、美咲とおんなじ気持ちだよ?」
「ふふっ」
「それより、美咲ー、あの沙織のひーっどい有り様をご覧ください—っ。ふふふふっ」

 私は教室の一番過度の席にちらりと目をやった。

 ……本当にひどい有り様。
 
 沙織は裸足で、しかもあの不細工な顔を歪ませて、しくしく泣いている。ウサギのように真っ赤な目は、宙を睨んでいて、なんだか悔しそう。

 先生はざわめきを無視し、早口でこう言った。

「誰がやったのか、放課後までに先生に言いに来る事。それと、何か知っていることがあったら、先生に言いに来るように」

 

****

*目次>>0
第一章 六年一組 >>0 >>1

        

Re: 六年一組物語 ( No.1 )
日時: 2018/01/22 14:37
名前: ぽぽ (ID: PLnfHFFW)

先生はそう言うと、

「一時間目は算数ではなく道徳にします」

 怒る時のような、強い口調だった。

 ……ふざけるなよ。

 そっと、斜め前の席の明里(あかり)が、

「あの先生の顔じゃぁ、きっと面倒くさいことになるよ。まぁ、でも……、先生は、本当に解決しようとは思ってないね、というか、解決なんてできるわけないし、ここまで沙織の悪評が広まってからじゃあ……ね」

 と耳打ちしてきた。

「そうだね」

 わたしも、うなずく。


 まず、初めに、いじめのアンケート。

 クラスにいじめはないか、だって。
 もちろんのこと、私は、無い、と書いた。
 多分、沙織以外、全員そう書くだろう……。

 さっさとアンケートを机の上に提出したあと、そっと明里に耳打ちした。

「上履き、やったの、誰だと思う?」

 明里は大きくてくりくりとした目を、くるくるとさせて、首を傾げた。そして、にっこりと笑った。

「うーん、まあ多分六年一組の女子の誰かかなぁ。でもねえ、あれだけ大胆なことするってことはねー、多分、朱美とか、加奈とか、そこらへん? まぁ、美咲(みさき)はそんなことやんないでしょー」
「まっさか、私がやるわけないじゃん! 私、リスクを冒すこと、大嫌いなんだよ」

 明里はくすくすとパーカーの裾を口に当てて笑い、美咲らしい、と。

 そして、

「もうそろそろ、席に戻ったら—?」

 そうだね、うなずいて席に着くや否や、隣の席の俊が意味ありげな笑みを見せた。

「菊知、さっきのアンケート、なんか書いたか」
「書くわけないし、そんなお前みたいにバカじゃないもん」
「俺も書いてねーわ。……『張本人』以外で書いた奴いんのかな」
「少なくとも女子はいないよ」
「おー、つうか、やっぱり女子ってこえぇ—。あ、でも男子で書いたやつもいないな」
「そうね」
 
 ちらり、沙織を見ると、まだ沙織はアンケートを真剣に書いていた。

Re: 六年一組物語 ( No.2 )
日時: 2017/11/12 16:26
名前: 一葉千羽 (ID: OmiQv8gT)

マジでハマりました
神小説だ…!

Re: 六年一組物語 ( No.3 )
日時: 2018/01/22 14:10
名前: ぽぽ (ID: PLnfHFFW)

>>2

一葉千羽さま

返信遅くなりすみません。m(__)m
コメント、ありがとうございます! 
これからも頑張っていきます〜♪ どうぞよろしくお願いします。

Re: 六年一組物語 ( No.4 )
日時: 2018/01/22 14:35
名前: ぽぽ (ID: PLnfHFFW)

*登場人物*(脇役も含めて、です。正直、これは読まずに飛ばしてしまって結構です。私が書く際に混乱しないように作っただけのものなので……)
※どんどん追加していきます……!

菊知 美咲 キクチ ミサキ
金城 明里 カネシロ アカリ
清水 朱美 シミズ アケミ
飯高 加奈 イイタカ カナ
真田 沙織 サナダ サオリ

林 俊   ハヤシ シュン
津 賢人  ツ ケント

Re: 六年一組物語 ( No.5 )
日時: 2018/02/10 13:51
名前: ぽぽ (ID: PLnfHFFW)

 教室の後ろの方で、怪訝そうな顔をし、沙織を睨んでいる二人組がいた——。そう、朱美と加奈だ。この、『沙織虐め』の主犯の。

 私は、さりげなく、教室の後ろにあるゴミ箱に消しカスを捨てに行くふりをして、二人の会話を盗み聞くことにした。

「なに、アイツ。ずーっとアンケート真剣に書いちゃって」
「虐められる原因は全部自分にあるのにね。あの、上履きの件だって、ウチらがあいつのためにやったというのに」
「そうそう! ……なのにさ、先生は全部私たちの責任だって考える」
「ね! ……ていうか、あの沙織のアンケート、先生に見られたら、やばくない?」
「確かに……。ねえ、朱美、ちょっとあいつのアンケート、奪いに行かない?」
「……でも……、先生に、ばれるよね」

 二人がここまで話したとき、丁度いいタイミングで、一時間目の終わりを告げるチャイムが鳴った。

 先生は、二時間目の授業に使う教材でも取りに行くのだろう、さっさと廊下に出て行ってしまった。
 
 私もさすがに、ここまでゴミ箱に長居をしていると、二人に盗み聞きをしていることがばれてしまうので、席に戻って、席から二人の言動を眺めていることにした。

 朱美と加奈の二人は、先生がいなくなったために、さっきよりも大きな声で話すようになった。だから、私の席からでも、十分何を話しているのかがわかる。

 二人は沙織の席に近づくと、後ろから、加奈がさっとアンケート用紙を取ってしまった。

「ちょ、ちょっとなにすんのよ!」

 沙織が、血相を変えて叫び、加奈からアンケート用紙を取り戻そうとした。
 
 それを、朱美が取り押さえる。朱美はこのクラスでも体格がいいうえ、スポーツ万能だ。もちろん、運動音痴の沙織が朱美にかなうはずがない。

 クラス中の人たちが、面白そうにそれを見物していた。

 加奈は、アンケート用紙を手に掲げ、面白そうにこう言った。

「今からこのアンケート用紙を読み上げるよー! みんなも、聞きたいよね! 聞きたい人—!」

 クラスの、沙織と朱美以外の全員が手を挙げた(朱美は沙織を取り押さえていたために、手を上げられなかった)。

「じゃあさ、みんな、先生が返ってこないかどうか、廊下を見ておいてね。それじゃ、読み上げまーす」

 加奈は、本当に無邪気で、楽しそうな笑顔で、そういった。クラスの数名がドアの近くへ行った。

 加奈とは対照的に、沙織は、目を真っ赤にさせて、えんえんえんえん、と泣いていた。「ブッサイク」どこからか、そんな声が聞こえた。

「まず、いつもみんなが私を無視します。私の事を見て、暴言を吐きます。私は特に悪いことは何もしていません。なのにクラス中の人が私をいじめます。ひどいです。悲しいです。いつもみんなが私を見ると笑います。先生、助けてください……だーって、サ」

「キャハハハハ、なにそれー、ウケる」

 朱美が沙織を取り押さえながら、そういった。みんなも、笑っていた。

「なあ、菊知ー。あいつの泣き顔、キモ過ぎて吐きそう」
「わかる」

 俊が笑って笑って、かすれてしまった声で言った。

 明里も、ただひたすらに、笑っていた。

「それじゃあ、証拠隠滅という事で、この沙織のアンケート用紙は、捨てちゃいます!」

 加奈はそういうと、紙をビリビリに破いた。そして、紙片を大切そうに窓際までもっていくと、外に、すべて捨ててしまった。

 紙片は風に乗って、どこかへ飛んで行ってしまった。

「朱美、もう離していいんじゃない?」

 朱美が沙織の腕から手を放した。床に、沙織が崩れ落ちる。

「絶対に……ぜぇーったいに、先生に言ってやるんだから」

 悔しそうに、沙織が叫んだ。

「そうはさせないよーっ」

 加奈の、弾んだ声。

「だって、私たち、もう、手を打ってあるんだから」

 朱美が、勝ち誇ったような笑顔でこう言った。

「こんなこともあろうかと! あの沙織のクソみたいな顔と、裸の女性の体を合成した画像を持っているの」

「そう、もし、先生にチクったら、その画像を、学校中、いや、ネット中にばらまいてやるからね」
 
 ……多分、作り話だな、と思った。
 大体、小学生で、ろくにインターネットの知識もないあの二人が、写真を合成するなんて、出来るわけがないのに。

 でも、沙織は、本気で、そう信じてしまったみたい。

「……嘘……でしょ」

 バーカ。

「ねえ、先生戻ってきたよ!」 「席に戻って、席に戻って!」

 ドアの近くにいた数名の人が、騒ぎ出した。

 数秒後、先生が教科書や資料を持って、ドアを開けた。
 
「さ、真田さんっ⁉ どうしたのですか? 何があったのですか?」

 先生が、泣きじゃくる沙織の事を見て、素っ頓狂な声を上げた。

 朱美は、冷静にこういった。

「ああ、先生。さっき、真田さん、ゆりいすをしていたら、椅子がひっくり返って、頭を打っちゃったみたいで。すこし、頭が痛いそうです」

「そうですか……、真田さんは、少し安静にしておいてください。では、アンケート、回収。後ろから前へ、用紙を回してください」

 沙織のアンケート用紙がないことは、幸いにも、先生にはばれなかった。

 そして、アンケートが回収し終わると、先生は、国語の教科書を取り出し、ぶつぶつと話し始めた。



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