社会問題小説・評論板
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- 落ちるのならば、地獄へ
- 日時: 2017/11/15 16:59
- 名前: えみのむら (ID: tftNTdUs)
荒い息づかいで、茜は部屋に飛び込み勢いよくドアを閉める。鍵をかけたところで、糸が切れたように膝からガクンと崩れ落ちた。
もう心も体もボロボロだった。
神は不平等であり、もう私に微笑んではくれない。
今までに失った温もりを求めるように目を瞑るが、もう光も見えない。
……これは1人の少女が歩んだ道、そしてこれから歩むべき未来。
- Re: 落ちるのならば、地獄へ ( No.1 )
- 日時: 2017/11/15 17:15
- 名前: えみのむら (ID: LJMHYFdO)
普通だと思った。そう信じて疑わなかった。
だけどいつからか、それが分からなくなったのだ。
「…抑えるべきポイントは、万葉集は日本で最古の和歌集だということ。ここテスト出すぞ−。それと、この持統天皇と柿本人麻呂は──」
光差し込む暖かな教室に、クセのある国語教師の島宮の低い声が響く。うつらうつらし始めたところで、不意に低い声が聞こえなくなった。
「大山、今言ったことの答え、言ってみろ」
顔を上げたタイミングでそう問われ、自分が寝そうになっていたことに気付く。意地悪そうな島宮の笑顔にため息をつき、軽く黒板を見て「…歌聖」と答えた。
「な、なんで分かったんだ…?」
予習しているしていない以前に、まず問題聞いてなかっただろといったような島宮の顔に、心の底で吹き出しそうになる。
バーカ。あんたの出す問題なんて予想済みだよ。
去年、一昨年、さらにはもっと前からこの学校にいる島宮の過去問なんて、もう集めきっていた。どの問題も出し方がワンパターンだし、授業中たまに出す問題も必ず何か法則がある。
今回の場合は、「習ってもいないところを出題する」という異常なまでの質の悪さだ。最も、私には関係がないのだが。
- Re: 落ちるのならば、地獄へ ( No.2 )
- 日時: 2017/11/15 17:42
- 名前: えみのむら (ID: LJMHYFdO)
私、大山茜(中学3年生)は、非常に「普通」が似合う人間だと思う。意識しているわけではない。素で、「普通」なのだ。
物心ついたときから、自分に何が足りなくて何が足りているかなんて分かっていた。それを改善しようともしてこなかった。ただできるのは、勉強・バスケ、そして絵を描くこと。
ずっと描いてきた絵も、すぐ捨ててしまうから成長が感じられない。油絵に透明水彩、アクリル絵の具…。色々試してきたキャンバスも、どこにあるのか分からない。
「つまらない」と、ずっとそればかり思ってきたせいで、中学に入ってから友達が一人もできなかった。仲良くする気もなかった。
どこの高校に行きたいのかも分からず、自暴自棄になりつつある日々。もう9月なので提出を迫られる進路希望調査も、親にすら出さずファイルの奥底で眠っている。
「…じゃあこれで終わり、気をつけて帰れよ−、今日は帰りの学活なしだからなー」
気づけばチャイムが鳴っていて、島宮が下校を促す。そういえば今日は授業が終わり次第下校だったなと思い出し、また一日をムダにしたと感じた。
- Re: 落ちるのならば、地獄へ ( No.3 )
- 日時: 2017/11/16 12:25
- 名前: えみのむら (ID: LJMHYFdO)
「…はあ」
自然と出てくるため息を止めることもせず、私はリュックに荷物を詰める。
英語の教科書、数学のワーク、理科のプリント…。テスト前なので提出物関係を全て持って帰らなければならない。なかなかの苦痛だ。
私が荷物の整理に手こずっていると、不意に後ろから笑い声がした。
「横谷−、あんたこれやっといてよ」
「ハイ、筆跡変えないとバレるからこれ。莉奈ちゃんの文字サンプル。一枚1000円からでーす」
「明日までにやんないと、痛い目みるよー!」
女子4、5人で一人の少女を囲んで、何やらノートを突きつけていた。真ん中で怯えたように拒否しているのは…確か、横谷やよい。地味で真面目なのに、何故かつり合わないあのグループと一緒に居る。
ノートを無理矢理渡そうとしているのはそのグループでも一番目立つ浅間莉奈。ぱっと見て名前が分かったのは、その二人だけだった。
「や…でも、こういうのって自分でやらないと点も取れないし…」
言いかけた横谷が、私の視界からフッと消えた。
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