社会問題小説・評論板
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 顔の無い隣人
- 日時: 2020/02/06 07:14
- 名前: 野口達也 (ID: jGEzFx76)
これは、「思考伝搬」と言う稀な障害者になってしまった私の実体験談です。
私は野口達也。埼玉県に住む40歳。久喜市から加須市へ引っ越したのは実家が立ち退きで引っ越す事になったからだ。そこで父は今まで保留になっていた稲作農家の後継ぎを三兄弟の中から選ぶ事になったのだが、話し合いでは埒が明かず 父の逆指名により三男が家を継ぐ事に決定した。その為長男である私は家を出て職場に近い加須市にあるアパート、加須市花崎4-13-5ロイヤルハイツ201号室で一人暮らしをする事になった。それなりに独身貴族の生活を楽しんでいたが、仕事と家事でこれまで趣味で書いていた小説を書く暇がなくなり不満を抱え、仕事で腰を痛めたのを切っ掛けに一念発起して小説家になるべく決意して退職してアパートに籠り日々小説を書く生活に明け暮れていたのだが、芽が出ることなく五年もの年月が経ったとある小春日和。耳元で誰かが囁く声が聞こえて来た。最初は近所の住人の話し声が聞こえているのかと思っていたのだが、あまりにも近距離で聞こえて来る会話に何処か違和感を覚えたのだが気のせいだと放置していた。しかし、その囁き声は更に不可解な内容に変わっていったのだ。気怠い朝目が覚めて起きようとすると、何処からか独り言が聞こえて来た。
?「あっ。今目を覚ました。」と、それからまるで実況中継でもするかのように私の行動を逐一中継し出したのである。それはまるでラジオの中継でも聞いているかのような感覚で悉く私の行動を言い当てられたのである。不可解な現象に盗撮か盗聴でもされているのでは?と戸惑いつつも気のせいだと思い込み無視していたのだが、下の階に住んでいる住人のシャワーや夫婦の営みの声や仕草まで脳内に伝わって来るようになり不信感が募るようになる。最初は安アパートの壁が薄いから話し声や物音が筒抜けなのだと思ったのだが、どうも違うらしい。何故なら私の部屋に置いてある冷蔵庫のモーター音に合わせて下の階から大きな物音が聞こえて来たのだ。近所迷惑だなと思いながらも無視していたが、その音が頻繁になり的確に冷蔵庫のモーター音がした直後にその嫌がらせの騒音が始まったので、そんなに下の階に住んでいる101号室に聞こえる程我が家の冷蔵庫のモーター音は五月蠅いのだろうかと思っていた。しかし、延々と下の階から作業音が聞こえて来たのでどうやら下の階は内職で何かの作業をしている業者かと推測出来た。たまにその部屋の駐車場に無数の段ボールを積んだ車が駐車していた事や部屋の扉に社名が表示されていた事から個人経営の業者がアパートの個室を借りて作業しているんだと推察した。
更にしばらくして、同じアパートの住人同士の会話で五年間引き篭もり状態だった私の事を不審に思い、私をアパートから追い出そうと画策していた会話まで聞こえて来たのだ。
しかも下の階に住んでいる102号室の奥さんが盗撮まがいの事までして私を追い出そうとしているのを看過出来ずに警察に迷惑行為だと訴え通報してしまったのだ。
しかし、その迂闊な行動が住人の怒りを買う羽目になり102号室の夫から恫喝行為を受ける事となり、このままでは殺されると恐怖し家族や友人にメールで助言を求めるとすぐに両親と三男が私のアパートに駆けつけて来てくれたのだ。そこで話し合いの結果、いかなる理由であれ警察に通報した私が悪いと言う結論が出て、迷惑を掛けた住人に土下座して謝罪をし、相手が望んでいた私のアパートからの強制退去する事を条件を提示してすぐさま加須のアパートから逃げ出したのだった。
しかし、この程度で同じアパートの住人達の怒りは収まる事はなかったのである。
新しく建て替えた実家に身を寄せた私だが、そこでも三男の嫁の声で迷惑だと言う心の声が聞こえたような気がして、居たたまらなくなり実家を飛び出してマンガ喫茶で一夜を空けようと寄ったのだが、小説家に息詰まり自殺を考えていた私はインターネットで自殺の名所である富士樹海のサイトを閲覧していると背後から話し声が。しかも何人もの何者かが個室の背後から覗いてはヒソヒソと囁きながら振り向くと逃げ出して行くではないか。
「おい。アイツ富士樹海のサイト見てるぜ。」「誰かを殺してこれから埋めに行くんじゃないか?」と、とんでもない妄想の会話まで聞こえて来た。
その何処か聞き覚えのある声に私は嫌な予感がしてカウンターに頼んで別の個室へと移動して仮眠しようとしたのだが。またしても外から覗かれている気配が、しかもその気配は私が眠っている隙に財布を盗もうとしたり、寝ている所を壁枠の上から私を盗撮したのだった。
気味が悪くなりそのマンガ喫茶を立ち去る事にして、遠くにある別のマンガ喫茶に移動して、個室でマンガを読んでいるとまたしても背後から近くの個室にいたアベックの囁き声が聞こえて来た。その声は間違いない私が住んでいた加須のアパートの真下の階の101号室の住人の声ではないか!
何故、先回りされていたのか理解出来ずにこの場所にもいる訳にも行かずにすぐさまそのマンガ喫茶からも逃げ出した。
そして、行く当てのない逃亡生活が始まる。その手段は不明だが何処へ行っても奴等が追い掛けて来るような気がしてマンガ喫茶にも入れない。何処まで逃げても加須の住人の会話が聞こえて来る為、車に盗聴器でも仕掛けられているのではないかと疑う。その会話が消え失せる事もなく、路駐で仮眠をとって逃亡を続けていたがこのままでは埒があかないと観念した私は話し合いの場を設けるべく久喜のマンガ喫茶へ入る。案の定、集団で追い掛けて来た加須の住人とその連れ達。恐らく報復の機会を窺っていたであろう会話を聞いて敢えて死地に身を投じる覚悟で事の収拾を決め込んだのである。しかし、その中の一人に良心的な娘がいて私の事を庇う素振りを見せた女性をいたのを聞いて覚悟を決めて店を出てその駐車場で車のカギを開けたまま眠った振りをしておびき寄せ、対話による決着をつけようとした。深夜、寝静まった駐車場に停めた私の車の前に群がる加須住人の魔の手が迫る。あの囁き声はよく聞き取れない。しかし彼等の気配はする。緊張感に身を竦ませながらも息を潜めて待ち続けたのだが一向に接触して来る気配はない。しばし待つ。人の気配が失せ車から外に出ると周囲に人影は何処にも見当たらなかった。
翌日、事の早期解決を望んだ私は再び加須アパートへと向かい、事の発端である101号室の扉の前で大声で謝罪を呼び掛けた。しかし、彼等の反応はない。これ以上話し合いは無駄だと判断した私は意を決して警察へ相談する事に決めた。そして加須警察へ向かう途中、焦った加須グループの連中から脳内に話し声が聞こえて来る。それは私への示談による慰謝料の請求電話を掛けるという内容の会話だった。すると五年間一度も掛かって来た事のない電話からコール音が鳴る。知らない番号だった。彼等の会話から私が大金を持っている事を把握した上で多額の慰謝料を請求する事は容易に理解出来た為敢えて無視して加須警察署へ相談しに向かった。
車を停め警察署へ入り担当者に相談を持ち掛けようとすると、また加須住人の声が聞こえて来る。そして私は監視の目を知覚し加須の報復を恐れて相談を持ち掛ける事が出来ずにいると、警察官は私が精神疾患だと判断し実家へ連絡されそのまますずのき病院へ入院する羽目になるのだった。しかし、これで安眠出来ると安堵したのだがそこも決して安息の場にはならなかったのである。何と時を同じくして加須の連中もその病棟へ同じ日に入院して来たのである。
毎晩聞こえて来る夜襲の相談。基本的に個室には鍵が掛かっていなかった為にいつ襲われやしないかと恐ろしくて再び眠れぬ日々が続く。そしてある晩、誰もが寝静まった丑三つ時。加須グループは行動を開始した。
眠った振りをしていると耳元に聞こえて来る「行けよ。」と、言う激励に背中を押された101号室の住人が私の部屋の扉を開けられる。慌てて飛び起きると、脱兎の如く逃げ出して廊下を走り去る彼。「腰抜け!」「根性無し!」との罵声が彼に浴びせられた。果たして廊下にある監視カメラに彼の姿は映っていただろうか?
翌日、先生に「加須の連中が私を追ってこの病棟にいるんです!」と訴えたが、顔も知らない隣人の病室を指摘出来ずに妄想だと判断されてしまう始末だった。
それから相応公害を連発していた彼らは、私に何の危害も加える事もなく一か月ほどで退院していった。
そして、入院中脳内に囁かれていた入院患者達の複数の声は病院で処方された薬を服用する事で次第に遠退きまるでラジオの電波が途切れるように聞こえなくなったのである。こうして、突如私に襲い掛かって来た謎の病気は精神疾患として治療する事が出来たのだと安堵したのだった。
そして無事三か月で退院した私は実家へ帰ったのだが。どうしても確認したい事があって実家のある久喜の近所にあるアパートへ引っ越す事にした。
そこで暫く何も起こらずに、引き篭もり状況を止める為に念願だった小説家を諦め飲んでた薬を断薬して再就職する事を決意した私だが、そこでも腰痛を再発し無念にも退職する事となり腰を痛め失意のあまり寝込んでしまうのだった。
それからしばらくして、またしても悪夢が蘇って来る事になろうとは夢にも思わなかった。久喜市南1-6-1彩梨館311号室の下の階、あの加須アパートの101号室に住んでいた彼女が引っ越して来たのだ。再び聞こえて来る聞き覚えのある内職の作業音。そして、再び始まる実況中継。またか!まさかまた監視カメラか盗聴器を仕掛けられたのだろうか?と不安に駆られる。
そういえば、私が再就職した直前。私の部屋に来訪した母が勘違いして真下の階の部屋の扉の鍵穴に私の部屋の合鍵を差し込んだまま紛失した事があった。そして、私が出勤している間に何者かが侵入し私の部屋を荒らした形跡が僅かに残っていた。盗られたものは加須アパート事に盗撮の証拠として録音したが実は何も取れていなかったボイスレコーダーだけだった。
慌てて加須から追い掛けて来ただろう真下の階の住人に侵入されたと思い鍵を取り換えて貰ったのだが、不安は残る。矢張り警察に相談すべきだろうか?合鍵で侵入された時に取り付けられたと勘違いした私はまたしても加須とのテレパシー通信が始まり余計な情報を加須に与えてしまい、襲撃に談話を聞いてまたしても眠れぬ夜を過ごす羽目になる。キャッシュカードを盗られまいとトイレに流しもした。警察は当てに出来ない。何と説明したら良いのだろうか?全て私の推測で物的証拠も無いのにまともに取り合って貰えるとも思えなかった。
いつ起こるかも知れない襲撃に一睡も出来ずに日々を過ごしその環境に耐えきれずに自殺をも考えた。
それでも我慢出来ずに再び警察に通報したあの加須グループを何とかして貰いたかったのだ。しかし、家族がやって来て通報を取り消されて有耶無耶にされてしまうのだった。取り合えずそのアパートも引き払い私は実家に戻る事となった。
しかし、いつ加須アパートの連中が襲って来るかも知れないと恐怖し、更に脳内には加須グループからの脅迫めいた指示が届く。
「自殺しろ。さもないと一家もろとも皆殺しだ。」その恫喝に逆らえる事も出来ずに奴等の言いなりになって自殺を図ったが、家族に阻止された。それでも眠れない日々が続き襲撃にそなえ壺を傍らに眠れずにいたり、再び自殺を阻止しようと家族に一晩中監視された。その状況に耐えきれなくなった家族が相談して再びすずのき病院に入院させられる事となった。
しかし、そこでも私の病名は「統合失調症」と診断されて、全ては妄想だと判断されて真実は闇の彼方に葬られてしまったのである。しかし、不思議な事に病院で処方された薬を飲む事で症状が改善したので全て妄想、幻覚の類だったと思い込む事にしたのだった。
そして、三か月して退院し実家に身を寄せ。社会復帰の為に腰改善しようとジムに通ったが農業で腰痛を再発してしまい社会復帰を断念せざるおえなくなった。
取り合えず実家に住む事で加須の追撃の脅威は去り家の農業を手伝いながら平穏な日々を送っていたのだが。
悪夢が三度襲い掛かって来たのである。それは農作業の阻害を感じて薬の副作用に悩んでいた頃、既に病が完治したと思い込んで断薬して間もなくの頃である。そうその当時の私はまだ知らなかったのだ。あの薬が治療薬ではなく抑制剤であったという事実を。悪夢は終わらない、真の恐怖はこの後起こったのである。